〈群馬追悼碑裁判〉和解協議打ち切り、弁論再開へ/勝訴に向け市民集会開かれる
2019年11月01日 16:58 主要ニュース 歴史県立公園・群馬の森(群馬県高崎市)にある朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑の設置許可について、県が更新しなかったのは違法だとして、碑を設置した「記憶・反省そして友好」の追悼碑を守る会(以下、守る会)が処分の取り消しなどを求めている訴訟。
今年に入り4回の和解協議が行われてきたが、追悼碑の撤去を前提とする県と、追悼碑の設置許可を求める守る会、双方の主張は平行線を辿り、結果、6月28日の第4回和解協議をもって協議は打ち切りとなった。よって、弁論は再開となり、12月17日に第4回口頭弁論が、来年3月5日に第5回口頭弁論が行われる見通しだ。
これと関連し、「記憶・反省そして友好」追悼碑裁判の勝利をめざす市民集会が10月27日、群馬県前橋市内で行われた。
12月の控訴審にむけて
集会冒頭、あいさつした角田義一弁護団長は、県の不当な処分に対し、訴えを提起した約3年半に及ぶ第1審を振り返りながら「完全な勝利ではないが、裁判所は県の処分が違法であると判断した。今日の社会状況のなかでは歴史的に意味のある判決だ」と述べる一方、一審判決後、今年1月以降続いてきた和解協議が、打ち切られたことについて、「県の姿勢は一貫して追悼碑の撤去だが冗談じゃない」と県の対応を批難した。
角田弁護団長は、「植民地支配により朝鮮の人々がどれほど酷い目にあったかということに対する認識がまったくない」と日本と朝鮮半島の関係に対する世論が差別的であることを指摘。そのうえで、控訴審で勝訴することに意義があると説き、多くの市民の傍聴を呼びかけた。
つづいて、追悼碑裁判の現状と見通しについて、弁護団の下山順事務局長が報告した。
下山事務局長は、裁判経緯を述べた上で、第1審前橋地裁判決について改めて争点を確認した。
第1審では、(1)県が定めた追悼碑設置の許可条件が合憲か否か、(2)追悼集会が設置許可条件に違反する「政治的行事」といえるのか、(3)追悼碑設置について10年間の更新を許可しない県の行為が裁量権の逸脱か否か、(4)追悼碑が都市公園の効用を全うする機能を喪失したのか、(5)県による追悼碑設置に関する不許可処分が合憲か否か、以上5つが争点だった。
これについて18年2月14日、前橋地裁は次のように判決を下した。(別表参照)
そのうえで下山事務局長は、東京高裁における控訴審で、県側が新たな主張((1)守る会には碑の管理能力がない、(2)碑の設置許可に関する更新要件を満たしても不許可にできる)を展開していることに対し、「不許可処分の通知書には、更新要件が満たされていないため不許可にしたと書いてあり、県はその不許可理由に書いていないことを追加した」と指摘。(*控訴審では、2月27日の第3回口頭弁論で、裁判所が県に対し、追加で主張した内容について釈明を求めるも、県側が関連文献を提出せず、また回答が不明確であった。その後和解協議がもたれた経緯がある。)
下山事務局長は、12月に再開する控訴審に向けて「県の新たな主張に弁護団としてしっかりと対応していく」と話した。
「政治的」を理由に規制
その後、美術家・美術評論家の白川昌生さんが講演「表現者としての時代性―追悼碑を創作した思い―」を行った。白川さんの作品は、愛知県で開催された「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」で展示された。
白川さんは「『国、地域での政治的状況の変化により、公共彫刻の立つべき足元がゆらぐ』ということを作品に込めたいと思っていた矢先、群馬で追悼碑の問題が起きた」としながら、90年代の終わりに、松代大本営跡地にある碑と出会ったことについて回想した。
「朝鮮から連れてこられた人々を集中的に働かせ、松代の町民は強制的に移動させ、無人にして穴を掘り地下壕がつくられた。それを示す碑が地下壕の入り口に立っているが、当時、強制連行、強制労働の文言が消されたことを知り、初めて問題を認識した」
白川さんは、不自由展の出展者として携わる過程で、抗議電話へ対応した自身の経験についても述べながら、「表現の自由の問題は戦前からずっと続いている」と強調した。
また自身の作品以外にも、不自由展で展示された作品に言及したうえで「政治的であるというよりも、もう少し普通の生活感覚から出てくる『こうしたい』とか『こう思っている』というものが表現されている。『政治的』を理由に規制する行政のほうが、個人的には過敏すぎるし、おかしいのではないか」と指摘。今後、表現する側に自主規制の風潮が広まる可能性があることを懸念した。
最後に、白川さんは参加者たちに向けて、「碑の撤去問題もそうだが、公共の記憶を伝え守る必要性があるのにそれを共有させない。あたかもなかったように記憶を消してしまうのは問題だ」と訴えた。
第1部の閉会に際し、アピール文が採択された。その後、会場では、第2部として追悼碑裁判を支える会の第5回総会が行われた。
(韓賢珠)
別表
- 許可条件は不明確とはいえず、碑が政治または宗教上の目的に利用された場合には、紛争の原因となるため、条件として合理性が認められる。(合憲)
- 「強制連行」という文言は、その発言に含まれる歴史認識に関する主義主張を推進する効果を持つため「政治的発言」である。そのため、追悼集会の政治性は否定できない。(「政治的行事」と認定)
- 設置許可の更新をしないことは裁量権の逸脱濫用とはいえない。
- 碑は日朝、日韓の過去の歴史的関係を想起し、相互の理解と信頼を深め、友好を推進するため有意義であり、公園の効用を全うするものとして設置された。(都市公園の機能は喪失していない)
- 碑に対する制限が、表現する当人の表現の自由を侵害するものであると主張する場合、表現者が、法的に当該表現手段の利用権を有することが必要。法は、碑の設置・管理許可について公園管理者の許可に委ねている。しかし、県の不許可処分は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。(違憲)
*群馬追悼碑裁判
2014年、群馬県は「紛争の原因になる」などという理由から、県立公園「群馬の森」に設置された追悼碑の撤去を、碑を設置した市民団体(守る会)に求めた。同年7月、県が設置期間の更新申請を不許可としたことで裁判に発展。碑の建立以来、追悼碑前で行われていた追悼集会は、13年から19年現在まで、他の場所での開催を余儀なくさせられている。係争中。
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