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短編小説「労働一家」3/李北鳴

2022年10月02日 09:00 短編小説

12時間以上の苦しい労働と、餓死寸前の貧しい生活では、いつもの溜め息と苦痛だけがついてまわった。

思いっきり笑った後、旋盤工たちはもう一服つけた。気持ちよさそうにタバコを吸って腹の底まで入れ、フーと吐き出す彼らの表情には、愉快な労働生活ならではの幸福感がみちあふれていた。硫安肥料工場から連続的に聞こえてくる送風機の響きは、健康な人間の呼吸のようである。

「どこへ行ったんだろう?」

鎮求は、話すこともあるのにと、さっきから探してはみたけれど、達浩は見当たらなかった。

新しくカゼインを塗って、造花と、絵画と、壁新聞などで装いを一新した建国室は、暖かい陽光でいっそう明るかった。250人くらい入れば満員になろうかという建国室は、彼らの教室であると同時に大衆文化の娯楽室でもあった。生産協議会、技術講習会、講演会などの集会はここで開かれた。この他に、全工場的な集会場として千名は収容できる立派な会館がある。労働者たちは、その会館で全ての大会をひらき、演劇や映画を鑑賞することができた。

建国室の南側のガラス窓の上には、金日成将軍の肖像画が掲げられていた。

窓と窓の壁には何枚かのスローガンが貼ってあるが、その中には、「われわれは、ない物は新しく作り、不足な物は補いながら、あらゆる困難と障害に打ち勝ってこそ、新しい豊かな国を作ることができる」という金日成将軍の言葉が掲げられていた。

掲示板には、初めて壁小説が紹介され、工場の初級党組織が発行する「速報」と、職盟(※朝鮮職業総同盟の略)文化部からでる「職場ニュース」が貼られていた。

労働者たちはその前に人だかりをつくり、熱心に読んでいた。東側の窓の横に集まっていた10余名の労働者は、「スタハーノフ運動とは?」という題名の本を読むのに余念がなかった。また、「王手」「王手、飛車!」といいながら将棋に気勢をあげる者もいる。外では朝鮮相撲やバレーボールが盛んであった。勝負が決まるたびに歓声が上がる。みんな明るく生きいきとしている光景であった。

外に出て、笑いが静まるのを待って建国室に入ってきた李達浩は、憂鬱な表情で一人で腰かけていた。

あたかも、自分は、建国室の内外の明るい雰囲気とは何の関係ない人間だ、といわんばかりの挙動であった。ある創意考案のために、深い考えにとらわれているようにも見えなかった。ただ一人で溜め息をつきながら、どうしたのか焦っているようでもあった。

彼の指の間では、半分も灰になったタバコがはさまれていた。

(つづく)

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