「もし、トンムたちが2番目のピストンを私にまかせてくれるんだったら、私は真心をこめて、死力を尽くして立派な製品を作り出すことを固く誓います」
と達浩は自分の言葉を結んで檀を下りた。
「鎮求トンム!僕は君にほんとうにすまんことをした。すべてを許してくれ。以前の友情でこれからもよろしくたのむよ!」
「ありがとう達浩!あやまちはお互いさまさ。これから一生懸命やろうじゃないか。力を合わせりゃ、どんなことだってやれないことはないさ」
鎮求は達浩の手を固く握りしめながら、しばらくはなさなかった。
急に拍手が起こった。それは鎮求よりも達浩に送る激励の拍手だった。
鎮求が電話を受けて職業同盟委員長のもとへ行くと、急用だから履歴書を書いて出すようにと言われた。
履歴書を出して家へ帰ると、一足先に帰った妻が夕食の準備に大わらわだった。
「ね、あなた。あたしがちょっと遅く帰ったら、スドルが水汲みやら、火を起こしたり、大変な変わりようなのよ」
感心して上ずった妻の言葉に、
「スドルが?やつも忙しい時だってことを知ってるからだろ」
鎮求はうわの空で答えたが、内心は先の履歴書のことで頭がいっぱいだった。もしかしたら人事移動かな?それとも?気になったが、知るすべもなかった。
鎮求はメーデーの日に職場支配人の表彰者に内定されていた。皆勤して資材を節約しながら生涯ノルマを上げたばかりでなく、なによりも家風を改めたのが他の模範になったからであった。
「一杯いかが」
いつもより明るい妻が、透き通ったコップに焼酎をなみなみとついだ。
「うーむ、匂いだけでもこたえられないなあ!」
ちょうど飲みたかった夕暮れ時だったので、彼は一口でグッとあけてしまった。
「うーっ、うまい!スドルはどこへ行ったんだ?」
「運動服を買ってやったら、さっそく着て出ていったわ」
スドルはメーデーの体育会ではリレー選手に選ばれていた。
(つづく)