2度も来て言うこの言葉が、本当に鎮求にはありがたかった。
鎮求の方は、明日の朝には仕上がる予定だった。もう少し動作を敏活にし、分解掃除に3時間も費やさなかったら、ちょうど達浩と同じころ終わっただろうに。だが、そんなことを言ってもあとの祭りだった。
鎮求も弁解がましいことは言えなかった。達浩の勝利は明らかだ。しかし勝敗は明日の朝、決まるのだが…。
達浩は自分の腕前を見せたのがいかにも痛快だった。
優れた旋盤工として自他ともに認めている鎮求を追い越したのだから、彼は有頂天になっていた。だが一つだけ心残りがなくもなかった。鎮求のバイトを使ったことだ。たとえそれが自分の本心ではなかったにせよ、これはマイナスだ。それで鎮求のバイトを研いでやることによって、つぐないをしようと申し出たのである。
その晩、達浩は自分の勝利の喜びを妻と2人だけで分けあうには物足りない気がした。彼は金を工面して妻に祝宴を用意させた。友人を何人か呼んだ。
「だから何事もやってみなけりゃわからんもんだて」
酔いがまわった達浩が有頂天になって自慢しはじめた。
「そうだとも、実力にはかなわんもんさ。さあさあ、乾杯だ!それにしても、この酒が清酒だったらよう…」
「そもそも酒は清酒が一番だって…」
「酒だけが一番かね?ワッハッハハ」
友人たちは代わるがわる達浩に酒を勧めた。
「もう硫安肥料25万トンはまかしとけって。その前祝いを兼ねて、さあ愉快にやろうぜ」
達浩は妻にもっと酒を買わせた。彼は自分で自分の首を絞めていることに気付いていなかった。
「あーあ、まかしとけって」
「今度は誰と競争するんだ?チュンシギ?いや『耳ちんば』がよかろう」
「耳ちんば」は朴宗秀のことで、鎮求と同じくらい優秀な旋盤工だった。
「いいだろう。だが、『耳ちんば』は鎮求みたいなヘボではなかろう」
「鎮求がなんの技術者かね。みんながはやしたてるもんだから、いい気になって…」
「そうだそうだ。『耳ちんば』も問題ないさ。負けてもともとだし…さあ一杯やれやれ」
達浩は、友人たちが自分の実力を認めてくれたばかりでなく、勝利を祝ってくれるので、のぼせあがっていた。彼の家では夜更けまで笑いと歓声がやまなかった。
(つづく)