短編小説「労働一家」5/李北鳴


この2月にも、工場の初級党組織と職盟では、政治関係の書籍とともに教育的意義のある文学作品を読む必要性を労働者に強調したことがあった。それによって文学作品に対する認識はいくらか改まったが、懸賞小説とか詩は、めでたい人が暇つぶしに書くものと思いこむ傾向がまだ少なからずあった。

鎮求はタバコの火を借りようとして振りむいた時、長椅子に腕を枕に寝そべっている達浩を見つけると、何か悪いような心地がして彼の方へ歩み寄った。

「あ、李トンム!どこへ行ってたんだ?君のセムシ踊りが見たかったのに…」

鎮求は変わらぬ親近感をこめて言った。達浩は踊りばかりでなく歌もうまかった。日本統治の時期に習い事で得た、一つの隠された才能であった。

「面会があって参加出来なかったんだ…」

達浩は不精髭をいじりながらニッコリ笑った。だが、その不自然な微笑は、彼の顔にうかんだ暗い影を隠すにはいたらなかった。

「タバコ持ってるの?一服しなよ」

鎮求は自分が吸おうと思っていたタバコを差し出した。つい最近までは遠慮もしない、冗談の通じる仲であった。

「いや、ちょうど吸ったところだ」

達浩は静かに起きて座りながら断わった。

「そう言わないで吸いなよ。このタバコは味が格別なんだ」

「いや、2本も続けて吸ったから、口が辛くてね…」

達浩は固辞した。彼の鎮求に対する態度は、どことなく敬遠するようなところがあった。鎮求はそれを知っていた。

鎮求は達浩のこのような態度に、なんとなく心が重かった。

達浩をこのようにした責任が、自分にあるように思うことが一、二度ではなかったからだ。

「達浩!この前にも言ったけど、あまり思いつめては体に毒だよ。働く時は火花がでるように働き、遊ぶ時は楽しく遊ぼうぜ」

鎮求は、このままゆけば必ず達浩との友情にヒビが入るようで、気がかりでならなかった。今も昔も変わらない達浩への友情を理解してもらえないのが、何よりも心苦しかった。

「それは僕も知っているよ、後で話そう。ちょっと用事があるから失礼するよ…」

達浩は急用ができたかのように、現場に通じる戸の方へ早足で去って行った。

(つづく)

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