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短編小説「労働一家」1/李北鳴

2022年09月30日 10:06 短編小説

建国室(解放直後、共和国北半部の各職場に設けられた民主宣伝室の一種)は労働者たちの雑談と笑いでざわめいていた。

ちょうど昼食を済ました旋盤工たちは、新聞紙で太く巻いたタバコをうまそうに吸いながら次の出し物を待っていた。娯楽会が始まったのだった。

今日の娯楽会では「トルトリ」(おどけ者の意)というニックネームをもった見習工に人気が集まっていた。

その文三洙は口数は少なかったが、歌においても、12種の笑いを真似る特技においても、職場では右に出る者はいなかった。

まだ音楽サークルを持たないこの職場の労働者たちは、メーデーの慶祝大会に参加する合唱団のメンバーと独唱部門の歌い手を選ぶのを兼ねて、休憩時間を楽しく過ごすために候補者を順番に出演させていた。ちょうど「トルトリ」にその順番が回ってきた。

文三洙より先に2人の仲間が歌をうたったが、尹君の「アリラン」はさびたドラム缶を叩いているようだったし、旋盤工金鎮求の「肥料工場の歌」もやはり、切り倒した大木を転がすような「のど」であった。だから三洙に集まる期待はそれだけ大きかった。

硫安肥料職場の送風機の音が時どき聞こえてくる。その音は、労働者が娯楽会を楽しんでいるこの時も、化学肥料が粉雪の降るように生産され、山をなしていることを告げる信号でもあった。

割れるような拍手に送られて標語版の前に立った三洙は、三角ばった目をこらしながらいつものように首を引っ込めたり延ばしたりした。歌う前のぎこちない仕草からして滑稽だったが、誰も笑う者はいなかった。暖かい4月の陽ざしがガラスの窓からさしこむ室内には、油の臭いと紫色のタバコの煙が充満し種々様々な模様を描いていた。目が痛いほどでもあった。

三洙は歌をうたい始めた。気持ちよく流れる小川のせせらぎのようなその歌は、労働者たちの心までも酔わせた。雰囲気があがった。

「アンコール」、「アンコール」

アンコールの声はうるさいほどであったが、それには何の反応も示さず彼は当たり前のように「陽山道」をうたい出した。「陽山道」は人気のある民謡であるから、みんな親しみを持っている。いつどこで聞いても、そのメロディーの美しさと民族的なリズムには心がうかれる。

「いいぞ!」

「もっとやれ!」

いつしか膝をたたいてリズムをとる者、箸をバチがわりにして踊る者まで出てくる。

「や、いいぞ、じっとしちゃおられんわい」

メガネを鼻の先にかけている旋盤工朱文植の親爺さんが、まずはじめに立って踊り出せば、続いて金鎮求と4、5人が踊り出した。群舞がはじまったのである。

まだ楽器はもちろん、有能な司会者もいない娯楽会であったが、それだけでも彼らはある程度仕事の疲れをいやし、心をほぐすことができた。こんな娯楽会は、運動サークルとともに、どの職場でも盛んであった。彼らはこの時間を労働生活の貴重な一部分としているのだ。日帝の圧制下では、このような娯楽会すら満足に開くことができなかった彼らであった。

(つづく)

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