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短編小説「労働一家」18/李北鳴

2022年11月01日 09:00 短編小説

「無知は破滅、知識は光明である」「学んでは働き、働いては学ぼう!」

鎮求は解放直後、こんなスローガンを見ては大きな衝撃をうけたものだった。――国の主人となった俺が明き盲とは!学んで学んでまた学ぼう!――彼は異常なまでの決意をもって学び始めた。政治学習はもちろん、読書サークル、技術講習会、時事問題講演会など、ほとんどすべての会合に顔を出した。新聞もよく読んだ。知っていることよりも、知らずにいたことの方があまりに多かった。彼は、知らないことは書きとめておいて、それを知っている同僚たちに聞き、達浩にも教えてもらったりした。

このような勉学は、これまでの彼のせまい視野を次第に広げてくれ、彼の胸に新しい希望を抱かせてくれた。

解放の恩人である金日成将軍に対する感謝の念とともに、祖国と指導者、新生活のために、もてる力と才能をすべて労働に注ごうという決意が胸を突き上げた。彼は日本人が破壊していった工場を速やかに復旧整備すべく、1週間、10日と機械の傍らで同僚たちと寝食をともにしたこともあった。

大根3本を1日の糧として、クレーンを修理した解放直後のことを、彼は今もって忘れ得ぬ出来事として憶えている。

金鎮求は、達浩との競争については別段関心がなかった。だからといって軽視するわけでもなかったが、彼にとっては3つの生産部門における三角競争の方がより重要だと考えていた。

工場の門前にある掲示板には、月毎の実績がグラフによって表されていた。労働者たちは出退勤時、大きな関心をもってこの掲示板の前で足を止めた。これまでの成績では、清掃においては旋盤部門が“飛行機”で、生産と出勤率では“亀”であった。飛行機は早く先進的なものであり、亀は遅く立ち遅れたものを表していた。名誉とは言いがたい亀になってしまったのは、不良品数が相変わらず少なくならないこと、一部の労働者がいまだに人民経済計画の重要性を正しく認識していないことに起因していた。これは旋盤部門のみならず、他の部門でも少なからず表れている現象であった。このような傾向を克服するため、党の指導の下に、各職場では建国思想動員運動とも合わせて生産検討会がひんぱんに行なわれた。また、職業同盟は模範労働者との活動をより強化するとともに、創意考案運動を積極的に推し進めることになった。

金鎮求はこのほかに、地区の党組織からもらいうけた資料をもって、労働者たちの家族に建国思想運動に関する解説をするよう指示されていた。しゃちこばった演説調は避けて、おもしろおかしく興味を引くような座談会形式でやってくれという地区の党宣伝部長からの注意があったが、衆目にさらされると火を抱いたように火照ってしまい、そんなことは考えるひまもなかった。彼は、咳ばらいをしながら話し始めた。

 

(つづく)

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