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短編小説「労働一家」4/李北鳴

2022年10月04日 09:00 短編小説

「畜生っ、失敗してもともとだ!」

達浩はこのようにひとり言を言っては唇をかみしめた。

ちょうどその時であった。ワッハッハッという力のある笑い声が掲示板の横で上がった。それは「チンピラ」という題のついた壁小説を読んでいた鎮求の笑い声にちがいなかった。

「どうした、どうした?」

好奇心が動いた旋盤工たちは、その笑い声に引かれて集まっていった。だが、達浩だけは依然として不快そうであった。

彼には鎮求の笑い声が自分をあざ笑うように思えて、振りかえるとしかめっ面をして、続けざまにタバコを3回吸い、溜め息と共に吐き出した。

「ちょっと、この小説を読んでみろよ。よく書いてあるぜ…。一回読んでみなって、ハハハ…」

鎮求はまた笑った。仲間たちが笑いを求めて壁小説を読みだす。

その小説の内容はこうであった。1947年度の人民経済計画を超過完遂するために、すべての力を増産にそそぎ、多少の困難も祖国の建設のために我慢しなければならないと言いながら、もっとも愛国者ぶっている男がいた。だが彼は口先ばかり達者で、仮病をつかってはよく工場を休んでいた。そして彼は、工場から盗んだ品物をヤミ市場で売買していたところを見つかり、クビになってしまうというストーリーであったが、先日、似たようなことがこの職場でも起きていた。

「ウム、それらしく書いとる。読んで胸を痛める奴がいないかな?」

「ありえることだよ。だからこれは、注射でいえば予防注射だな」

彼らが文学作品に対して論議するということは、珍しいことであった。

「このような文を作る人は、ありもしないことをデタラメに書くというけど、そうでもないじゃないか」

戯作のような類いの小説しか読んだことのない文植の親爺さんが、誰ともなく話しかけた。

「それは解放前のことだよ。われわれの生活に合わない恋愛とか、三角関係とかというものを、今の小説に書けるかい」

「それもそうだな。このごろはすべて新しくなっているからな」

労働者たちには、よく分からない分野の話であったが、なんとなくまじめな意見を交換していた。

事実、彼らの中には、まだ小説を読んだことのない人が十中八九はいた。

(つづく)

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