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短編小説「労働一家」19/李北鳴

2022年11月03日 09:00 短編小説

「それは座談じゃなく演説だよ。演説のうちでもお経を読むような演説だな」

そこに参加した親爺さんが後でこう言った。

「なんたって、みんなの前で演説することほど骨の折れることはないって」

鎮求は今まで何回も会議で討論に加わったが、そのつど彼は自分がたいそう口べたであることをやるせなく思った。

彼は生産部門の仕事だけでなく、他の面においても責任がだんだん重くなっていくのに気付いた。なんの取り柄もない自分ではあるが、党や職業同盟が頼り甲斐のある者としてまかせる任務を彼はむしろ光栄に思っていた。

彼は現在と日本の統治時代とを比べてみた。職場はすでにその機構を民主的に一新していたが、家庭は旧態依然としていた。鎮求は、職場生活と家庭生活が一致しないわけはないと、まず家庭を民主的に改めるために家族を労働につかせねばと思った。彼は解放後、冬になれば妻を成人学校に欠かさず出席させていた。

ふた冬を越すと妻は簡単な手紙や新聞を読めるようになった。こうすることによって、より幸せでより満ち足りた生活を送れるものと彼は信じてやまなかった。

「おい、僕らも達浩たちのように、家族同士で競争してみようか? 競争と言ったってたいしたことはないさ…君は今よりバリバリ働く女性になり、またスドルはもっと勉強する生徒になればよいのさ。そうすれば僕ももっとよい働き手になれそうだよ。どうだやってみるかね?」

鎮求はある日、妻に石鹸工場の模範女性である尹淑姫の話が出たついでに冗談めかして言ってみた。淑姫は職場の仲間だけでなく、機械修理工の夫と増産競争を呼びかけてみんなの模範になっていた。

「頭を使う仕事だったら苦手だけれど、力仕事だったら人には負けないつもりよ」

意外にも妻は自信ありげに答えた。

「僕もやる!」

スドルも大きく出た。

こうして冗談が実際になり、鎮求の家では家庭三角競争が始まった。彼はメーデー前に家のまわりをきれいに整理し、裏庭の百坪ほどの荒地を耕して野菜を植えることにした。

息子のスドルは人民学校の3年生である。そう鈍い子ではないが、成績はよい方ではなかった。50人中、中位だった。最優等生になれないまでも、せめて優等生くらいまではと、鎮求はいつも息子の勉強には悩ませていた。それに加えて2番になれと言うと、ふくれっつらをするほどの暴れん坊で、学校では短距離とサッカーの選手だった。膝小僧に包帯を巻いてびっこを引きながら歩く姿は日常茶飯事であった。

(つづく)

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