短編小説「労働一家」7/李北鳴
2022年10月10日 09:00 短編小説彼は藍色の海と真っ蒼な空が接し、一直線を引いたような水平線をしばらく眺めていた。20年ちかく日本は、この工場で生産される莫大な硫安肥料をはじめ、この国の金、銀、白米と、貴重な物資を船に積みこみ、この海のむこうにある本国へ持ち帰ったではないか!
8.15前までは、「日本海」は怨みの海であった。しかし今、金鎮求が眺めている「東海」は、心を安らげるやさしい海原であった。それはまさに、輝く希望に波打つ祖国の海であった。
一人で機械の前に立った李達浩は淋しい心地がした。親友たちの影すらなく、機械まで止まっている旋盤工場は、重い沈黙に包まれていた。
何のためにお前はそんなにも強情を張っているのだ――あたかもたくさんの機械が自分の顔をジロジロ見ながら、冷笑しているようであった。達浩は自分の旋盤の前に立ったが、心が乱れて作業を始める気が起こらなかった。
彼は重い沈黙が自分を押えるのを感じながら孤独感に包まれた。――あまり苦しむなよ――一昨日の職業同盟班長の言葉がすーっと脳裏をかすめた。
俺はなぜこうなんだ?彼は自分に反問した。違う、これも勝つためだ――達浩は憎い孤独感をふりはらうかのように頭を振り、口唇を噛みしめた。
旋盤を凝視する彼の目の前にふたたび鎮求の顔が浮び上がった。彼は目を閉じた。
16尺の大型旋盤には、合成工場の生命とも言える圧縮器のピストン・ロットがセットされていた。長さ15尺にもなろうというこの大きな鋼鉄は、長いシャフトのようでもあるし、長距離砲の砲身のようでもあった。
どうしても鎮求よりは先に成功しなければ――達浩はこのように考えながらも、はっきりとした結論を得ることができないままスイッチを入れた。
モーターの回転と同時に旋盤の空転が始まった。この職場では、モーターが直結されている新式の機械と、メインシャフトと機械ベルトで連結されている旧式の機械が半々であった。機械の音とベルトの回転音が重い沈黙を破りながら騒々しく拡がっていった。その音響は達浩の孤独感を吹き飛ばした。
彼は回転する旋盤の横に着くように立ったが、複雑な心境は焦りだけを生み、仕事は一向にはかどらなかった。
(つづく)
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