短編小説「海州―下聖からの手紙」21/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳


とりとめのない考えが私の心を乱しました。

兄さん、かれが職場から大学に推薦されながら、それを放棄したことは書きましたよね? ところがその頃かれはふたたび進学推薦を受けたのです。工事の竣工予定が、来年のメーデーから今年の7月末に短縮されると、職場の方から要請がきたのでした。連隊指揮部でもかれの功績を十分評価し、快く承知したそうです。喜ばしいことじゃありませんか。竣工式を終えるまでは絶対に行かないと意地をはっていたチルソントンムも、親身になって説得する連隊長の言葉に承諾せざるをえなかったという噂を、私はつい5、6日前、耳にしていたのです。それから内心かれが私になにか言ってくるだろうと待ち焦がれていたんですが、会うことさえできなかったのです。

もう幾日もないのか……。こう思うと、無性にいらだちをおぼえました。それに、昼間連隊からそのことでかれに連絡があったというのに、それならそうだとこれまでの友情からしても、一言くらいあってもいいものを……。

こんな気持ちでしたが、いざ五万山の前に立つと(心はもう平壌に、大学の広々とした教室に飛んでいるかれに、いまさら何を言うの?)と、私は迷いました。私はもう一度心をひきしめると、チルソントンムたちが作業する山腹の東側に回りました。

ちょうど交代したばかりらしく、チルソントンムの分隊は坑道口のまわりに、じかに地べたへ座りこみ、やたらタバコを吹かしていました。タバコの火が赤く燃えるたびに、なぜか沈んだ顔と顔が目につきました。どうしたのかしら? 歌と踊りと笑いが絶えない楽天家ぞろいの部隊として有名なかれらが?……。

そんななかでただひとり、チルソントンムは坑口から少し離れた石に腰をおろして沈む夕日に照らそうと本を精一杯高く持ち上げ、首を伸ばし目をこらして見入っているのでした。

なにかあったなと私は思いました。それでパクトンムにさりげなく近寄って「どうかしたの?」と聞いてみたんです。かれは黙って横の掲示板をあごで示しました。私は驚きました。まさしくグラフの矢印が羽根を折られた鳥のように落下しているのです。

「どうしてなの?」

こう迫る私に、かれはこんな事情を話すのでした。はじめのうちは順調にいっていたが、坑が深くなるにつれ掘り出した土を運び出せなくなったと言うんです。それは無理からぬことでした。導坑といっても、人ひとりがどうにかはうようにして一輪車を押せる程度の坑なんです。なかでいくら速く掘っても無駄なことです。人が百人いようが削岩機が山とあろうが狭い坑内から土を運び出す作業が解決しないかぎり、それも役立たずです。こういう訳で、はじめ5~6メートルは楽に進んでいたのがここ何日間は2~3メートル進むのも四苦八苦だと言うのです。

(つづく)

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