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短編小説「海州―下聖からの手紙」1/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

2022年06月09日 13:04 短編小説

私は、妹の手紙を公開しようと思う。

そうすれば読者のみなさんにも私の気持ちが理解してもらえるだろう。

1958年、妹は海州―下聖間の青年鉄道建設に参加した。高校を卒業した妹は両親の必死の説得にもかかわらず就職を希望したのだった。進学させようとした父母も妹の強情さにはまったく手を焼いたようだった。

妹は卒業間近に、働きながら通信教育を受けて技師になるという自分の考えを話した。そしてそんな成功の例として、ある女性の手記と写真を取りだしてみせたのだった。

「私は平坦で安易な道を歩みたくなかったんです。困難で険しい道をよじ登り頂上に到達するときにこそ真の生きがいを感じるし、またそれが一生のいしずえをしっかり築くことになるんじゃないでしょうか。まして、私のような温室育ちには試練が必要だと思うんです」

妹は鉄道管理局に配置され、通信区の交換手となった。それから1年もたたない1958年5月、海州―下聖間の鉄道敷設工事に参加することを希望したのだった。車中から一通、現場から数通の手紙をよこしたきり、なんの音さたもなかったのが8月のある日、ひょっこり次のような長文の手紙を送ってきたのだった。

※   ※

兄さん、ついに私たちの手で完成した海州―下聖間の鉄道に列車が一昨日に走ったんです。兄さんにもあの重々しい汽笛を聞かせてあげたかったわ。国中を偉大な力で抱きしめるように汽笛は山河をゆるがし、喜びと情熱で身ぶるいするかのようでした。私、あまりの感激に泣いてしまったわ。人間は感情におぼれると、無意識に涙するものかしら。そのときの気持ちをしいて言うなら、難産をした母親が赤ん坊の泣き声を聞く心情とでも言いましょうか……。いいえ、そんなありふれた個人的な感情じゃないんです。それを表現できるものがこの世にあるなら、むしろ私、幻滅を感じるでしょう。

(つづく)

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