短編小説「海州―下聖からの手紙」6/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳


「……わかりました……」

蚊の鳴くような声で一言こうつぶやいてとぼとぼ歩きだしたかれを、私は知らぬ間に追いかけていました。

かれは巨体を引きずるように、夕日が差し込む松林の細道を歩いていました。そんな姿をみる私の耳もとで、「トンム、こ、これは僕の、う、運命を左右する問題なんだ。どうか……」と言う声が大きく大きく鳴り響くんです。すると、なぜかかれに対する同情心が胸を突き上げてくるのでした。運命の問題だという表現は多少おおげさな気もしましたが、なにか深い事情があることは私には理解できました。

「トンムー、トンムー、待ちなさいよー」

私の声に立ち止まったものの、わけのわからないかれはあたりをキョロキョロ見回していました。そして私を認めると、さも不思議そうな面持ちでもどってくるのでした。

「とにかく呼んでみましょう。それで駄目なら仕方ありません」

かれにこう言うと私は交換台に向かいました。決して呼び出せるとは思っていませんでした。私の誠意でも見せるつもりだったんです。

ところが意外にも奇跡が起こりました。1時間もたたずに清津を呼び出し、かれの希望どおり鉄道建設事業所初級党委員会につないだんです。まったく奇跡としか言いようがありません。

海州、沙里院、平壌、咸興、清津のどの交換台も、はじめは事務的な応答でしたが、「ここは海州-下聖青年鉄道工事場です……」と言うと、決まって相手の声がどういうわけか感激と活気を帯びるのです。たとえば平壌交換台のトンムなどは、「海州-下聖ですか! まあたいへんでしょう。えっ、作業に取りかかりましたの! なんですって、初日に215%? 素晴らしいわ。おめでとう! 私たちも決起したんですけど上部の許しがないので気がクシャクシャしてるのよ! ……えっ、咸興を呼ぶんですか、話し中なんですけど……いいわ。了解を得てそちらに優先権をあげますわ……」

こんな風にひっきりなしに清津まで呼び出したのです。

私よりも傍で聞いていた彼がもっと興奮してました。

「全国が私たちを見守っているのですね! それなのに私ったら……とにかくありがとう。交換手さん……」

こうして何かつぶやきながら受話器をぎゅっと握り直す彼の顔はひときわ活気を帯びていました。

「もしもし、もしもし」と相手の方からかん高い声が響いてきました。

すると、青年は言葉に詰まり、私の顔を見つめるんです。

何か迷っているようなんです。

(つづく)

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