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短編小説「海州―下聖からの手紙」2/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

2022年06月09日 13:04 短編小説

汽笛を聞く私の脳裏にはこの70日間の悪戦苦闘が走馬灯のようにかけめぐり、それがみなこの一瞬のためにかけられたと思うとまったく感無量でした。

兄さん、ともあれ私たちはこうして首相同志からさずかった任務をりっぱにやりとげたんです。あと半月ほどすれば後片づけを済ませて帰ります。積もる話はそのときにゆっくりするわ。でも兄さん、一つだけ話しておきたいことがあるの。とくにアボジ、オモニにはどうしても聞いてもらわなくてはならない私個人の問題なんだけど、面と向かっては言いにくいことなんです。それで兄さんからうまく話してもらおうと思ってこの長い手紙をコツコツ書きはじめたんです。これを読めば、兄さんはもちろん、オモニ、アボジにも私の気持ちはわかってもらえるはずです。

兄さん、私たちの建設大隊が仕事にとりかかって4日目に起こった大事件がなんだかわかるでしょうか。それは「野戦売店」に山のように積まれた菓子袋がすっかり売り切れたことなんです。実際、あの英雄的な海州―下聖青年社会主義建設者たちの前に横たわった最初の難関が食事のことだとしたら、おかしく思えたり、笑われるかもしれません。でも事実そうだったんです。

炊事員たちが一日中休む間もなく駆けまわってもおぼつかない有様だったんです。それに炊事員といっても名ばかりで私たちが交代できりもりしていたんです。なにせ何百人分ものごはんを五つの大きな釜を使って炊きだすんだけど、釜が釜だけになかなか思うように炊けなくて、強火にすれば底の方は焦げ臭い煙をはき、上の方は生のままだし、弱火にするとまったく生米が飛び散る始末なんです。仕方なく少しずつ炊くとなると朝、食事を待ってざわめく有様なんです。

(つづく)

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