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短編小説「海州―下聖からの手紙」28/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

2022年08月25日 09:00 短編小説

チルソントンムは、無言のままただじっと坐って聞いていました。話がすんでもかれは動こうとはせず、山の下に光を放つあちこちの現場や遠くの野原と山脈を、さま感慨深げにながめるのでした。そして、私たちがいる梅花山一帯に目を移すとなぜか視線はいつかの穴ぼこで止まるのでした。

「ミョンヒトンム、あそこで小隊長は重機を抱いたまま戦死したんだ……」

「えっ⁈……」

私は驚いてかれの熱っぽい目をみつめました。

「いつか少し話したが……。あれはたしか再侵攻のときだった」

足下の泡沸石土をひとすくいすると、かれはつづけました。

「最高司令官同志の命令をうけて南進軍中の人民軍は、この邑川江一帯で敵と大激戦をやったんだ。連隊右翼から侵攻していたわが大隊はこの梅花山高地を占領した。ところが、海州を目前にした敵も、必死に反撃し、この高地の下、あの工事現場に大兵力で押し寄せてきたんだ。大隊では、小兵力を残して敵をひきつけ、主力をすばやく機動迂回し、敵を側面からせん滅する作戦をたてたんだ。そこで僕の小隊に高地を守る任務がおりたわけなんだが、ちょうどこの山の背が小隊の陣地だったんだ。ようく見たまえ。まだところどころ草木が生えていないだろう。あれが、ざん壕に腹ばいになり24時間をこらえぬいた小隊の血の跡なんだよ……。

まったく、みんなよいトンムたちばかりだった。『地質探査隊』というあだ名のトンムは僕と同じように高校から軍隊に飛び込んできたトンムなんだが、将来の理想は地質探査隊員になって三千里江山くまなく掘り返すことだと言った。かれの大きな背のうの大半を占める標本袋には戦闘中に集めた各地のさまざまな石ころと土のかたまりがいっぱい詰まっているんだ。また『沈清』というあだ名のトンムがいたんだ。でも女じゃないよ。かれはどんなときでも『母さん』でなく『父さん!』って呼ぶんだ。母親を知らずに育ったからなんだが、ひまさえあれば手紙を書いたり仲間に父親の自慢話をしてたよ。母親は地主の栗畑で草取りをしている最中、あぜ道でかれを産んで10日後に息をひきとり、父親が沈盲人が沈清を育てるように、背に負い乳をもらって育てたというんだ。

チュンボおじきという人は、日帝時代は作男で、独り身のまま年をとってしまったんだが、金日成将軍のおかげで土地をもらい、あくる年の春、33歳で嫁をめとって、息子二人と娘一人の子宝に恵まれ、いつも子どもの自慢ばかりしていた。上の子は高いところが好きだからパイロットに、下の子はおでこが広いから学者に、そして娘はすらっとしているから舞踊家にするんだと口を開けばその話だった。

(つづく)

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