短編小説「海州―下聖からの手紙」5/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳


でもどうしようもないので、「それは無理なんです……」

私は一言一言区切るようにはっきり答えました。

「駄目なんですか……」

瞬間、かれの目は大きく見開かれ、両の瞳には失望の色が漂うのでした。かれは何か言おうとしましたが、私の冷ややかな表情を見てとると、口元にさびしそうな笑みを浮かべるのでした。

「そうですか……」

かれは気落ちしたように深い嘆息をつくと、きびすを返すのでした。

(おかしな人だわ。どうして清津に電話を? 何かたいへんなことでも起こったのかしら……)

私は自分のつれない態度をすぐ後悔しました。

「電話はむずかしいんですけど……、急用なら海州郵便局に連絡して、清津に電報を打つよう頼んでみますけど」

私は言葉をやわらげて言いました。

「電報ですか?……」

かれはまたふり向きました。そして「電報でできるものなら……」とつぶやくとしばし考えこむのでした。やがてかれは「交換手さん」となにか意を決したように呼ぶのです。両目にはいきいきとした光がふたたび宿ったようでした。

「トンム、こ、これは僕の運命を左右する問題なんだ! なんとか力になってくれないか。えっ、お願いだ……」

話上手でないかれは、興奮するとどもるようでした。かれの意外に大きな声からは切々とした心があふれ、熱望と哀願に満ちた熱っぽいまなざしと赤黒く上気した顔は、それこそ運命の判決を受けるかのようでした。

心が動きました。でも私は、電報が海州、沙里院、平壌、咸興、清津……と中継していくのを考えて、それがいかに無意味なことであるか気づいたんです。

「できるものなら私もそうしたいんです。でも実際不可能に近いんです……」

すがるような顔を見る私も、何かすっきりしません。

かれは顔をゆがめ帽子を持つ手はけいれんでもしたかのようにブルブルふえました。かれは首をがっくりたれると、ゆっくり背を向けました。そのとき私、気のせいかかれの目に涙が光るのを見たんです。

(つづく)

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