「どうしたんです? 電話が切れてしまうわ……」
「もしもーし、どこだね? そちらは」
これを聞くと、かれは決心したように、空咳を二つ三つすると口を開いたんです。
「党委員長同志ですか?……、えー、ここは海州―下聖です」
「うん? 海州―下聖、すると君はビョンシクかね? で、工事に着手したのか?……」
「ち、違います。……ぼ、ぼくはチルソンです……」
「なにっ、チルソンだって? ……そんな馬鹿な……かれは金剛山にいるはずだ……じゃ本当に?……」
「そうです……僕です。休養所で首相同志の呼びかけにこたえて海州―下聖に志願する僕らの鉄道管理局傘下青年決起大会のラジオニュースを聞いて……。時間もないし、また所長や委員長も承認してくれると信じてまっすぐこちらに来たんです……」
「な、なにっ、きみ、正気か? いったいどういうつもりなんだね?……」
相手のあわてようが手に取るようにわかりました。
ところがチルソントンムは意外にも、先ほどの態度とは打って変わったように、落ち着き払って事情を話し始めたんです。
毎日奇跡を生んでいる海州―下聖のニュースを聞いてとてもじっとしていられなくなって、手続きもせずに休養所を「脱走」してきたと言うんです。高原駅に着いたらいい具合にその晩、清津鉄道管理局大体の特別列車が通過するというので、こっそり乗って来たんだそうです。
はじめ、かれの話を聞こうともしなかった党委員長も、だんだん耳を傾け始めたようでした。話を終わるとしばらく沈黙がつづきました。かれの顔にまた、あせりと不安の色がかげりました。
「……うーむ、君の気持はわかる。だが、だめだ……。うちではすでに送るべき人員は送ったんだ。それに君にはもっと大きな仕事が待っているんだ。わかったな……」
冷たい返事にかれはしばらくは何も言えませんでした。しかし、やがて我に返ったかれは受話器を両手でしっかりと握りしめました。
「委員長、承諾してください。一生のお願いです!……」
「まだ言うのか。私もつらいんだ。それに君、3カ月後には工大の試験があるということも忘れたのかね?……」
「えっ、工大……」
(つづく)