短編小説「海州―下聖からの手紙」8/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳


工大という言葉に、かれは一瞬体を固くしました。そして交換台の一角を射るような鋭いまなざしでじっと見つめるのでした。まもなく顔を上げたかれは決然たる態度でだしぬけに「中隊長同志!」と呼ぶのです。これには相手もいささかとまどったようです。

「中隊長同志、ここは例の……邑川江の岸辺です……」

「なにっ、邑川江?」

こう問い返す党委員長の声はかれの感情のたかぶりをはっきりと表していました。

「それで、梅花山も見えるのか?」

「ええ、ちょうどふもとまで鉄道がのびるんです……」

「ふーむ、そうか……」

「そうなんです、中隊長同志。どうしてこのまま引き返せますか。中隊長同志ならどうされますか?……」

「うーむ……」

また沈黙が流れました。チルソントンムは相手の顔を見入るかのように、熱っぽいまなざしで受話器をのぞくのです。私にもおぼろげながら、ここが故郷か、あるいは何か特別な因縁でもある所だろうと想像がつきました。ところがこのとき交換台から、「もしもし、終わりましたか」と、か細い声が聞こえてきたんです。

「話し中!」

私はあわてて叫びました。するとチルソントンムが先に口をききました。

「党委員長、僕だって大学に行きたいのはやまやまです……。でも大学には来年だって行けます。お願いです。駄目だと言っても僕は絶対帰りません……」

ところが依然、返事はありません。かれはいてもたってもいられず、なにか言おうとふたたび受話器に口を当てました。ところがこのとき「いいだろう、チルソン!」という興奮した声が伝わってきました。

「えっ?……」

「承諾したと言ってるんだ。私から所長に派遣状を送るよう言っておこう。そのかわり頑張るんだぞ。私の分まで、いいな!」

「わ、わかりました。中隊長同志!」

こう叫んだかれは、軍人のように気をつけをするのでした。さっきまでの表情とはうって変わったかれの喜びに満ちた顔を見ると、私もついつられてホッと一息ついたのでした。

「中隊長同志、では今すぐ大隊長同志に電話を回しますから、まず僕を追い出さないよう話してください」

(つづく)

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