短編小説「海州―下聖からの手紙」23/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳


「チルソントンム、遠慮することないわ。トンムはすでにりっぱな働きをしたんだし……、後のことはみんなに任せて……、それに連隊指揮部でも心おきなく行くよう言ったそうじゃないの……」

「な、なんだって!……」

かれは急にこう叫ぶと、ぱっとふり向きました。両目は私をにらみつけ、唇はぴくぴくけいれんを起こしていました。

「ミョンヒトンム……、まさかト、トンムがそんなことを言うとは……」

あまりの興奮のため、最後まで言えずにかれはすたすたと早足で行ってしまいました。

「チルソントンム……」、私の呼び声にかれはふり向きもせず暗闇のなかに消えてしまいました。私の目前には大きく見開かれたかれの興奮した目がまざまざと浮かび、「な、なんだって?」と言ったかれの声がありありと聞こえてくるのでした。ようやく私は自分の愚かさに気がつきました。五万山の前で悪戦苦闘する仲間をおいて発つことのできないかれの熱い心を理解できずに、馬鹿なことを言ったと……、私は胸がこみ上げ、目頭がジーンとしてきました。

私は五万山をふり返りました。

そしてこぶしを握りしめて心のなかで叫びました。

(五万山よ、今に見なさい! かれはお前をそのままおいては行かないわ。かならずお前を根こそぎ取り除いてやるから!)

それから2日後のことでした。

私は夜の当番だったんです。たしか2時過ぎでした。電話もかかってこないので本を読んでいたんですが、頭のなかは他のことを考えていました。

昼間も行ってみたら、作業の方はひきつづき下降線をたどっていました。そんなにもいい方法がないのかしら?……。自分の能力の無さをこのときほど痛切に感じたことはありませんでした。それで私は、この工事が終わったらいっそのこと仕事も変えて、通信工大学入試の準備をしなければと心に決めました。

こんな考えをめぐらしていると、テントの外で人の気配がしたんです。チョンオクが交代にでも来たんだろうと思って時計をのぞいたらまだ1時間もあるんです。ところが思いがけなく入ってきたのはパクトンムだったんです。

かれはどうしたのか、テントのなかをぐるりと見回すと、がっかりしたように丸木椅子にどっかり腰をおろしました。そうして、

「ここにもなかったのか……」と独り言のようにつぶやくのです。

「誰が?」

「分隊長トンムだよ……」

「チルソントンムが? なぜ? いなくなったの?……」

私はさっぱりわけがわからなかったのです。

(つづく)

短編小説「海州―下聖からの手紙」 記事一覧