勢いづいたかれは、テントを吹きとばさんばかりの大声でこう叫ぶと、受話器を交換台の上に放り投げ、一目散に外へとび出しました。交換台には、使いものにならなくなった帽子が忘れられたままでした。それを持って追いかけようとすると、かれがまた息せききってとび込んできたのです。そして、あぜんとしている私の手をしっかりと握りしめるのです。
「ありがとう。ありがとう。トンム!……すまないが大隊長同志に電話をつないでくれたまえ!」
こう言うがはやいか、かれは帽子をつかむとわき目もふらずとび出してしまいました。かれがあんまり強く手を握ったので涙が出そうでした。
私はテントの入口に立ち、まっしぐらに駆けていくかれの後姿を見送りながら(馬鹿力にほどがあるわ、あやうくつぶれるところだった……なんにしろ変わった人だわ……)、こう思ったものでした。
兄さん、つまりそのチルソントンムが「食堂突撃隊」の「コック」を志願したんです。(まったく……なんでも気が向きさえすればやりたくなる気性のようね……)。私はこう思いました。
何はともあれ思いがけないかれの志願は、ほかの人たちを刺激しました。すぐさま二十数人の突撃隊ができあがりました。そして、夕方からまさに戦闘が始まったのです。でもあいかわらず煙は立ちこめ、焦げ臭い匂いがプンプン……炊事場は文字どおり修羅場でした。
さて、私と同じ組になったチルソントンムは、火を燃やして釜をかき混ぜる仕事を受け持ったんです。
煙をいやというほど吸いながらも白衣を着てせわしく動きまわるかれの格好は、こっけいと言うほか言いようがありません。なにせ一番大きい白衣を着たのに、半コートみたいに膝は丸見えだし、そではひじがなんとかかくれるものの、歩くたびにそれこそはちきれそうなんです。
「トンム、どういうわけでこの突撃隊を志願したの?」
私はそっとかれに近寄ってこうたずねました。するとかれは顔を赤くして「どうして?」と聞き返すのです。
「どうしてって、別に……」
私はそれ以上なにも言えませんでした。
突撃隊はみな一丸となって頑張りました。とくに、チルソントンムは脂汗をしたたらせながらも仕事を死に物狂いでやりました。ところができあがったのはやはりお焦げ、半煮えかゆの「三段飯」だったんです。
配膳が始まると、私は飯びつを持って釜に近づきました。ところがかれはなぜかじっと焚口の炎をながめながら長い間、考え込んでいるのです。(突撃隊に入ったことを悔やんでいるんだわ……)。私はこう思いました。
(つづく)