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短編小説「海州―下聖からの手紙」13/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

2022年07月01日 09:00 短編小説

私は桶を背負って1号橋脚を掘る一小隊のなかに混じったんですが、そのとたん、小隊の雰囲気がなぜか、ひどく重苦しいのを感じたのです。

「諸君、女ねずみのお出ましだぞ!……」

いつもならこうちゃかすパクトンムも、今日は私を見ると軽くうなづいてみせるだけでした。かれはふくれっ面でつるはしを力いっぱいふりおろしました。ふと思いあたるふしがあったので、そっときいてみたんです。

「パクトンム、昨夜討議してた問題、どうなったの?……」

かれは黙って首を横にふるとペッとつばを吐き、満身の力をこめてつるはしをふり上げるのです。

(失敗したんだわ!……)。私は急に力がぬけるのを覚えました。そのころ、大隊の施工区域の他の作業場では、7月末の完成日にまにあわす見通しが具体的に立ったのに、ただこの邑川橋の橋梁工事だけがまだこれといった具体案がなかったんです。

そんな状況で昨夜討議された問題はかなり有望だとみんな大きな期待をかけていたところでした。しばらくの間、黙々とつるはしをふりおろしていたパクトンムが不意に腰をのばすと、

「今日は『支配人殿』もお目見えにならないようだな?」とつぶやくのです。すると誰かが横で「多分、釜がこげつかなかったのさ……」と受け答えたんです。みんなはじめて、クスクス笑いました。

私もそのことは先ほどから気づいていました。

なぜかれを「支配人」と呼ぶのかと言うと、かれが食堂突撃隊解散後も自分の小隊である第1小隊に帰れず、大隊長から食堂責任者に任命されたからなんですが、それよりも、みんなは「三段飯」を改善し、料理の質を「革命」するのに寄与したかれの功労に対して心からの謝意をこめ、なんの悪気もなくこう呼んだんです。

ところがかれには、それ以上嫌なものはないのです。「支配人」になった当初は、すっかり気がめいってしまい、もともと無口なかれの口は貝のように閉ざされ、眉間には小じわがくっきり刻み込まれたのです。幾度も大隊長に小隊に帰してくれるよう頼んではみたものの、当時の苦しい事情を考えた大隊長は、頭から耳をかさなかったのです。

そこで考えついたのが「忍び作業」なのです。つまり、チルソントンムは「忍び作業」の発起人の一人と言えましょう。かれは毎晩、1小隊の橋梁現場にひょっこり現れるのです。そのときにはかならず、油で揚げたおこげを新聞紙に包み、みんなに「ワイロ」として食べさすんです。ある日など一度は、「忍び作業」の帰り道にしごく深刻な面持ちで、「どうして突撃隊を志望したのですかと言ったトンムの言葉が正しかったようだよ、ほんとうに……」と、ぐちるのでした。

(つづく)

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