短編小説「海州―下聖からの手紙」11/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳


(いったい、どういうことなんだ?)。こんな周囲の雰囲気などまったく気にもとめず、チルソントンムは着替えもせずにポケットから大事にしまっておいた手帳を取り出すと、「指揮」し始めたんです。

(「三段飯」よりひどくなることはないだろう)。みんなこう思いつつ、かれの言うとおりに動きました。

水と米の分量はこうで、火の燃やし方はこうだ……というふうに、かれは釜と釜の間を忙しく動き回りながら「指揮」するのでした。でも私たちは最後まで納得がいきませんでした。

(これまで少しずつ炊いても「三段飯」なのに、釜いっぱい米を入れるとなると「五段飯」でもできかねないわ、夜中にいったいどこでこんな秘術をおぼえてきたからってあの騒ぎかしら……)

最初、私たちは釜を開けるとき、はらはらしました。なかにははじめから悪臭を予想して顔をしかめる人もいたんです。ところがふたを開けた瞬間、ここ数日味わえなかったご飯のこうばしい匂いがプーンと鼻をつくじゃありませんか。それでも信じられなくて、大しゃもじでかき混ぜてみたんですが、ほかほかした白米からは食欲をそそる匂いが湯気とともに立ちのぼるのです。

みんな万歳を叫びました。ぐっしょりぬれた服を着たままのチルソントンムは、ただニコニコ笑っているんです。かれの顔はとても25歳とは思えないほど子どもっぽく見えました。

五つの釜のうち、二つは底の方が少し焦げ、一つは上の方が少し半にえでしたが、それでも三段飯に比べればはるかにましでした。

こうして4日ぶりに全隊員が一度に「本物のご飯」(これはひょうきん者のパクトンムの評)を口にしたんです。

夕方、日直のトンムがこの謎を解き明かしてくれました。

チルソントンムは昨夜、海州に行ってたんです。道中、うまい具合に同じ方向に向かう車に飛び乗ったので着いたのは11時頃でした。そのとき、国営食堂は閉店間近だったんですが、海州―下聖建設場から来たと言うと、コック長は快く「技術伝習」を引き受けてくれたそうです。夜通し「理論講習」を受け、今朝、食堂の三つの釜で実習を試みて10時頃発ったというんです。つまり2時間で大雨の中の16キロを一目散に駆けつけてきたのです。

私たちは胸が熱くなりました。みんなかれの手を固く握りしめて、心からその労をねぎらうのでした。ところがむしろかれは困ったように後ずさりると「や、やめてくれよ……」と、口ごもるのです。

(つづく)

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