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短編小説「海州―下聖からの手紙」31/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

2022年08月31日 09:00 短編小説

『坊や、俺たちの分まで生きるんだ。ただこれだけは忘れないでくれ。愛する祖国の未来を思い、俺たちがどんなに美しい心を持ち、どれだけ多くの夢と設計図を持っていたかを……。そしてどうかおまえと多くの後輩たちで俺たちの夢と希望をこの地で花を咲かせてくれ……』

兄さん、そのときのかれの照れた目から本当に火花が飛び出るようでした。

「……その晩、戦友たちの名を復讐記録帳に刻んだ僕は、ふたたび進撃に加わった……。多くの敵をやっつけたよ。でもミョンヒトンム! 僕の復讐記録帳は共産主義を建設し、帝国主義を埋葬した後、はじめてあの烈士墓地の前で清算するつもりなんだ!……なのに僕が五万山を置いてどこに行けるんだい! 僕を見守る戦友たちの前で堂々と報告するにはあまりにも……まだあまりにもほど遠いんだ……」

兄さん、はたして私たちが住むこの祖国の大地のどこに、先烈の血がしみこみ、魂のこもっていないところがありましょう。かれらは息をひきとるとき、祖国の大地を抱きしめて願ったはずです。

かれらの生命の代価で次の世代が永く幸せに暮らすことを、そして、かれらの夢と理想が、輝かしい未来の設計が私たちの手でなされることを。

それなのに兄さん、私はこれまで一度もこういうことに対して真剣に考えたことはなかったんです。多くの詩からそんな意味の文句をおぼえ、朗誦したりしました。けれどもそれは私の考えではなく、たんなる「美しい言葉」にすぎなかったんです。恥ずかしいです。

でもチルソントンムはどうでしょう? チルソントンムは、祖国の繫栄と次の世代の幸福のためのし烈なたたかいで、人民と党が経た大きな苦痛と傷と犠牲をともに味わい、それを胸の奥深くにしまい、そうして私たちが勝ち得た今日がどんなに貴いものかを、体と心で感得しているトンムなのです。ですからかれは今すぐにでも「一つしかない生命を二つとない祖国のために捧げる」準備ができている今日の真の人間ではないでしょうか! だから世の中に恐いものを知らず、不可能という言葉を知らないのです。愚かな私は、チルソントンムは外見とは違って、頭の切れるトンムだとばかり思っていたんです。はたしてそれが人間のすべてでしょうか!

兄さん、私のスローガンが何だったでしょう。平坦大路は嫌だという私のスローガンは、祖国と生活に対する真実に深い理解と誠実な態度からではなく功名心と見栄からくる利己主義的なものだったんです。社会と人々の運命のなかから、自分だけ目立とうとする……。

(つづく)

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