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短編小説「海州―下聖からの手紙」29/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

2022年08月27日 09:00 短編小説

『詩人』と呼ばれたトンムもいたな。かれは降仙製鋼所の民青同溶解工出身だった。かれの傑作は、巨大な自動化された電気炉を主題とした詩なんだが、実に炎のごとく熱烈に、そして浪漫的に皆に読んで聞かせるんだ。小隊長はこんなかれをよく『空想的で浪漫的な詩人』と呼んでいた。

さてその小隊長について話そう。

かれは工大建築学部3年のときに入隊した、勇敢で知恵のある夢多いはつらつとした指揮官だった。かれはわずかな時間をみつけては、戦後自分が設計するつもりだという住宅や文化宮殿の略図を書きこんだ赤い手帳をみんなにみせるんだ。その手帳は政治工作隊として活動していた同窓生の恋人からのプレゼントだと言ってた。

あるときなどざん壕にもたれかかって鉛筆をしきりにかみながらぼんやりとはるかな空をながめ何か一途に考えこんでいるんだ。そんな後は決まって、一風変わった造りの家が赤い手帳に書きこまれていた……。

『おじき兵士』たちはかれの設計を、基本的にはよいが、温かいオンドル部屋とキムチのかめを埋める場所がないのが欠点だと言い、僕ら若い者は、おじきたちは考えが古いと小隊長を無条件支持したものだ。

夜中に大隊は迂回作戦に出た。小隊は敵の4度にわたる反撃を退けたが、貴い戦友を5人も失っていた。

小隊長の命令で僕たちは、敵の反撃の間をみて朝食の乾パンをかじっていたんだが、小隊長はこの泡沸石土をハンカチに包むと背のうにしまったんだ。不思議そうにわけを尋ねるとかれは性能を詳しく話してくれながら、これで家を造ったらさぞかし頑丈だろうと言うんだ。『それにこの色合いを見ろ。これで一度軽く塗りさえすりゃ万事オーケーさ。美装なんかいらないんだ。見ろ、このかすんだ卵色の美しいつやを! どうだ戦争が終わって坊やが可愛い花嫁をもらうとき、これで家を建ててやろう、ははは……』

『ちぇっ、小隊長トンムも……』

みな、僕を坊やと呼んだんだ。背丈や図体を見れば小隊はもちろん大隊でも僕くらいの人はいなかったんだが、歳を二つごまかして入隊したことと、最年少だということでわざと呼んでたんだ。僕は不愉快だったけど……。

突然、小隊長トンムは、

『坊や、戦争に勝ったら先ずここに来ような!』とひどく感情のこもった声で言うんだ」

「どうして?」

「どうしてだって? あそこを見ろ。村がすっかり焼けてしまったじゃないか!」。かれの目に火花がちりました。

「『この梅花山一帯にこれで別荘のような文化住宅を思う存分建てようじゃないか!』

『本当ですか? わかりました! 小隊長同志となら喜んでやります!』

『約束したぞ!』

僕たちは固く握って誓ったんだ。

それがミョンヒトンム、結局はこうして一人で来るようになってしまった……」

(つづく)

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