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短編小説「海州―下聖からの手紙」4/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

2022年06月13日 09:00 短編小説

大隊長はいぶかしげに声のした方を眺めました。

「うーむ、トンムか……よろしい」

大隊長はどうしたわけか口元に笑みを浮かべてうなづきました。

(チルソン?)。私も心当たりのある名だったのでよく見ると、案の定、かれだったんです。

ノッポのかれはやはり大またで、まっすぐ前に向かって歩いてくるのです。面長で浅黒い顔に光る両眼からかれの興奮が読みとれました。

(ついに願いがかなったようね)。私の心も自然となごむのでした。

かれは顔を真っ赤にして、私たちとは少し離れて立ち止まりました。いっぽう場内はこの一風変わった「コック」出現にどよめき始めました。それもそのはずノッポのかれがエプロンをかけて包丁をふるう姿を想像すれば誰でもおかしくなるでしょう。隣の子もクスクス笑っているので、私は横腹をこづいてやりました。

周囲の様子にかれは、すっかりあがってしまい、長い腕をもてあましているんです。場内はいっそう騒がしくなり、私の方がかわいそうになるほどでした。私がみんなのように笑えないのには、ちょっとしたわけがあったからなんです。

それはこちらに来て2日目の出来事でした。私は電話交換台の昼当番だったんです。

ひっきりなしに鳴っていた電話のベルも途切れがちになり、真っ赤な夕日がテントの小窓からさし込むころ、突然どこからともなく一人の青年がのっそり入ってきて、両手で帽子をいじくりながら、ぼそぼそと一つ頼みたいことがあると言うんです。

夕焼けを背にしたかれの浅黒い面長な顔は心なしか沈んで見えました。

私はとまどいがちに用件をたずねたわ。ところがかれはうつむいたまま、グローブのような手でただ黙って帽子をいじくっているんです。何か迷っている様子でしたが、やがてひょいと顔を上げると、清津に電話をかけてくれと言うんです。

「えっ、清津ですって?」

あまりにも突拍子な言葉に、私は驚いて立ちあがってしまいました。

(あなた、正気なの……)。こうのどにまで出かかったのが、ふとかれの顔を見ると言えなくなってしまったんです。かれの澄んだ目にある切実なものを感じたからなんです。

(つづく)

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