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短編小説「海州―下聖からの手紙」32/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

2022年09月02日 09:00 短編小説

私も「忍び作業」に出て桶を背負い、掲示板にも出たりしましたが、それは小学校のとき100メートル走をしていたあの競争心のわくを抜け切れてなかったんです!

この頃、私はようやく祖国について、真の生活、真の人間について目を開いて見はじめたようです。

私は遠く白みはじめた空のかなたへ波のように押し寄せていく山脈と、すがすがしい夜明けの嵐を運んでくる果てしなく広い平野をながめると、その山々と平野に対してこれまで感じたことのないある熱いものが胸にこみ上げてきました。

「祖国の大地よ! この馬鹿な娘を許してください……」

ひざまづき、手を合わしてわびたい感情が体中を熱くするのでした。

兄さん、何はともあれチルソントンムの「バケツコンベアー」は、その翌日にすぐ導入され、そうして五万山の爆破は予定よりも3日も早くなったんです。

ごう慢な五万山の心臓部に、20台の車で火薬をたっぷり抱かせたんです。私たちは4キロ離れて爆破を待ちました。

時間になると、まず山の根が引き抜かれるような土柱が梅花山の上空高く突き上がり、次に地軸をゆるがすような轟音がし、それこそ地震みたいに大地が揺れるので私たちはよろめいたほどです。

私たちはすぐ自動車に分乗し土煙に包まれ姿の見えない五万山に向かいました。五万山は怪物の死体みたいに真っぷたつになっていたんです。東側から眺めると、反対側に海州からのびた線路が見えました。

私たちは「金日成首相万歳」を喉も裂けんばかりに叫びました。みんな笑い声か泣き声かわからない歓声を上げ、互いに抱きあい飛びまわって喜びました。ひょっこりとひょうきん者のパクトンムが現れてアコーディオンをひき始め、それに合わせて一大群舞が始まりました。

ふと私は、そんななかで目立って飛び跳ねるチルソントンムの姿をみつけたんです。チルソントンムも私を見ました。そして帽子を脱いで大きくふり、子どものようにピョンピョン飛ぶように走ってくるのです。

私たちはしっかりと手を取り合いました。

「ミョンヒトンム!……」

かれの大きな声はふるえていました。私はかれの燃える澄んだ目をみつめながら、私の気持ちを表現する言葉を考えたんですが、胸だけドキドキしてさっぱり出ないんです。チルソントンムはニコニコしながら何か言ったようですが、耳ががんがん鳴り、聞きとれませんでした。

「私……私、トンムが一番……」

兄さん、私、消えるような声でこう言ったものの顔がほてり「いやっ!」と叫ぶと、逃げるようにその場を離れたんです。

「ミョンヒトンムー、ミョンヒトンムー」

何度も呼ぶ声が私の後を追ってきました。

(つづく)

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