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短編小説「魚のために道をひらこう」25/陳載煥

2022年04月08日 11:37 短編小説

ある農民は、テソンが小川で水浴びをしているのを見たという。それは養魚場の源から16キロほどの川下に当たるところだというのである。また、ある郵便配達は河の岸辺に石のかまどを築いて、何か煮ている人の背格好からみてどうもテソンらしく、そのわきには草で作った三角の仮小屋まで建てていたといいうのである。

その数日後には、もう少し確実そうなうわさが入ってきた。ある村の食糧配給所から、5、6日分ほどの米を持っていく人を見かけたので、どうしてこんなところへ来ているのかとたずねたところ、ちょっと遊びにきたんだと言ってにっこり笑っていたという。

養魚場ではこの話を聞くと、さっそくそこへ自動車を走らせた。ちょうど前夜、清津から帰ってきたばかりのジュンハも、新調のコートを着て乗り込んだ。ジュンハは無性にテソンに会いたかった。テソンはその幻想が崩れ去ったのでさぞ失望していることだろう。それで自分と顔を合わせたくないので帰りを渋っているのではなかろうか。テソンは後悔しており、これ以上自分の主張を言いはりはしないだろう。そうだとすれば温かい手を差し伸べてやらねばならぬ。

この1年の間、ジュンハの筋道の通った意見を尊重せずに自分の意見だけを頑固に言いはるから衝突したのだ。意地さえはらなければテソンが口惜しがることなど一つもないのだ。なんといっても15年も親しく交わるということはざらにあることではない。はたして自分以外に、絶望落胆しているテソンに温かい援助をしてやれる人がいるだろうか? いっときも早くテソンを探し出して連れ戻ろう。

こんなことを考えると、ジュンハのまぶたは熱くなってくるのであった。自動車が停まるとまっ先にジュンハがとび降りた。そして河沿いを急いで川下へ向かった。テソンは魚のようにどんな時でも水から遠ざかることがなかったから……。同行者たちはジュンハに追いつくために息を切らしていた。しばらく行くと、ときおりどこからかぼちゃんぼちゃんという音が聞こえてきた。

この音を聞いたジュンハは、まさしくこの音の主こそ探しているテソンだという確信のもとに、両手を口に当てて大声で叫んだ。

「テソンくん!」

同じ方角からまたもや、ぼちゃん!という音が聞こえた。一行は思わず駆けだした。

大きなニレの木がこんもり繁った砂地に、石のかまどと草で作った三角形のひさしが現れた。ジュンハはその中にテソンのリュックサックを見つけた。その前には、いま積みあげたばかりの石の土手が流れをせき止めていた。石と石の間や、真ん中に作られた通水口からは涼しげな水しぶきをあげて水が流れていた。

(つづく)

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