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短編小説「魚のために道をひらこう」34/陳載煥

2022年04月30日 08:00 短編小説

「毒がある! 気は確かか!」

ジュンハは彼の常軌を逸した行動に色を失い、急いで彼を引きとめたがすでに柄杓1杯ほどの水を飲んでしまったテソンは、ぼんやりした目で青い山並みの向こうの澄みきった空を見上げていた。

るつぼのように煮えたぎっていた彼の心臓はしだいに衰えてきた。山の頂の上には真綿をちぎったようなちぎれ雲がふんわりしている。白雲が煙のようにむくむくと青い空いっぱいに広がっていった。突然、たくましい彼の体がそのままの姿勢で水の上に倒れた。河の流れは気を失った彼の体をとりまきニジマスのように河下へと運び始めた。

「テソンくん!」

「テソンさん!」

慌てて何人かが彼を抱き上げ岸へ連れていった。そして一人が四つん這いになり、その背にテソンのお腹をあて首と腕をだらりと下にさげた。口や鼻から水を吐きだしたテソンは、薄目をあけて大きく息をした。

一同はテソンを河原の小砂利の上にそっと寝かせた。彼は満身の力を込めて起き上がろうとした。左右から両脇を支えられて半身を起こした彼は何か言おうとあせったが口がきけず、腕を動かそうとしても腕を持ち上げることができなかった。

彼の目はじっとジュンハに注がれていた。そのもうろうとした意識の中でも、わが子のような5万尾のニジマスを全滅させた原因は、水域と河底の調査を拒んだことにあるのがわかっていた。水の分析、河底や両岸の地質を何メートルか掘って検査するのは当たり前である。しかし頑迷に自然養魚に反対し続けたジュンハは、この分場の技術管理をいっさい拒絶したのであった。

テソンの充血した目が力なくジュンハを見上げていた。ジュンハは彼が自分に何ごとか言いたいのがわかったので彼の前に座り、彼の肩に手を置いた。

その時やっとテソンの右手がジュンハの額を指さした。ジュンハは、つと一歩引きさがった。動かなかった彼の舌が動き始め、彼は自分と取り囲んでいる同僚たちに向かってもつれた舌でとぎれとぎれに叫んだ。

「みなさん、あのニジマスを、皆殺しにしたのは、この人だ! ニジマスを今後も殺したくないなら、繁殖させたいなら、この人を、われわれの養魚場から追い出さねばならない!」

彼は身を震わせ歯ぎしりをしていた。歯ぐきからは真赤な血が流れていた。

「なんだと?」

ジュンハは威丈高に立ちあがった。これを見ていた一人の老人がジュンハのわきにつと進み出て、静かに口を開いた。

(つづく)

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