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短編小説「魚のために道をひらこう」27/陳載煥

2022年04月13日 09:00 短編小説

「あれは、有害物の流れ込むところですがね。これは480キロの大河の中で何カ所もありゃしない。だからすぐ改められるんですよ。それもせずに、やれ大同江の水は濁ってるの、やれ毒があるのというのは聞き捨てならんこった。この美しい山や河に対する冒とくだし、河辺の住民を侮辱することだ!」

彼は、ジュンハの立っている河岸へあがってきた。ジュンハは水際まで近寄って向かい合った。

ジュンハの握りこぶしはぶるぶる震えていた。

「現実を見てもそれを美化してさも愛国者然とするのは、人民に対する欺瞞であり、詭弁だよ。大同江にニジマスを放すというのはこじつけだ!」

「おあいにくさま、まったく可能だ」

これを聞いたジュンハは、さもおかしそうに大袈裟に笑いながら麦わら帽を見下ろし、落ち着きはらったようにゆっくり言った。

「それなら、きみは、なぜ悠々と流れている河を避けて、わざわざこんなちっぽけな河をいじくっているのかい? 同じことなら、魚にもっといい河をそっくりあてがってやればいいじゃないか……」

ジュンハの嘲笑に対して、彼はこぶしを振り回しながら言った。

「おれにはいっぺんに、たった一人で大同江に手をつけるだけの力はないよ。だから、自分の力でできる支流をまず選んだんだ。今からわれわれ養魚工がすっかり準備を整えて全人民に呼びかければ、彼らは大同江だけでなく、祖国の河や湖をすっかりきれいにして、魚の群れを歓迎するだろうよ!」

彼は、ジュンハにこれ以上なにも言う気がしなかった。そこでジュンハのわきに立っている養魚場の人たちの方に向きなおり、熱弁をふるった。

「若いみなさん、古い思想を振り捨てられない人を見かけるが、人民の美しい生活を押し流せないのと同じに、いくつか残っている汚水の流入口があるからといって、昔から清らかで澄んだ河として知られているわれわれの河をなくせるものではない。大小の河を魚の飼育場にかえようという人民の望みは、必ずわれわれ養魚工が先頭に立っておこなわなければならないし、これはまったく可能なことなのだ。小さな養魚場ひとつ作るにも何年もかかるんだから、400キロ以上の河を魚の家にするにはどうしてもある程度の時間がかかるのはいたしかたない。これが全人民の関心をとらえれば可能だが、それにはまず製鉄所や炭鉱、紡績工場などの労働者よりわれわれ養魚工が真っ先に立ってやらねばならない! まず、大同江、清川江から次々にわがニジマスの家にしていこうではないか! この有意義な仕事を、われわれのこの手で解決しよう!」

ジュンハは我慢できなかった。こうなったからには永遠にテソンとは道が違う。自然養魚をやれるならやれ、海で養魚をするならしろ!

ジュンハは急いで車に乗り込み、運転手にきっぱりと言った。

「帰ろう!」

自動車はまたたく間にほこりを巻き上げて姿を消してしまった。

(つづく)

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