公式アカウント

短編小説「魚のために道をひらこう」26/陳載煥

2022年04月10日 09:00 短編小説

テソンに同情し慰めてやろうと意気込んでいたジュンハは、苦り切った表情で河をながめていた。養魚場から流れ出ている河が徐々に広くなり、ここまでくると20メートル以上の幅をもつかなり大きな河になっている。草で作ったひさしのところから河は二股に分かれ、1キロほど下るとふたたび合流している。テソンは本流をせき止め支流に水を流してから本流を300メートルくらいの間隔でせき止めていった。すでに三つ目の土手を積んでいたが、中にはタンスほどの岩もところどころに置いてある。これを見た人たちは感心してしまった。

ジュンハにはテソンの計画がすぐのみこめた。石垣を築いて水を本流にまわして、囲った中にニジマスを放し飼いにしようとしているのだ。となると、テソンはいまだに自然養魚に期待をかけているわけである。

温かく彼をかき抱いてやろうと駆けつけてきたジュンハの気持ちは、一瞬にして消えてしまった。先刻とはうって変わった重い足どりでジュンハは、麦わら帽を頭にの乗せ河の真ん中で腰をかがめて水中で岩を動かしているテソンの側へ行った。

「テソンくん、どうするつもりなんだい?」

ジュンハは低いとげのある口調でテソンに話しかけた。この時初めてジュンハの一行に気がついたテソンは、びっくりした。

「やあ、これは、これは……」

彼は反射的に麦わら帽を脱ぐと、にっこりしながらあいさつした。

「きみは何をしているんですか?」

「土手を作っているんですよ」

「なんのための土手?」

「ニジマスの群れが大同江へ出ていくための通り道さ」

「ふん、まったくしょうがない人だ、きみは」

ジュンハは呆れ返って何も言えなかったが、胸の中にむらむらと怒りがこみあげてきた。自分への皮肉を言われたテソンは、

「ふん、まったくしょうがない人だ、きみは」

と言いながら石を持ち上げた。これを聞くとジュンハは、もはや怒りを抑えることができなかった。おまえはクマの子だとののしってやりたかった。とっさに彼の語気は荒々しくなった。

「おい、意地っ張りもいい加減にしろ! 自分の目で詳しく水域を見たくせに、まだそんなつまらんことを言ってるのか!」

「この目で見たからこそ自信が出たんだよ!」

「なに? きみだけが見たんじゃあるまいし、おれだって見たんだぞ!」

「とんでもない! きみは大同江の240キロを調べたと言うが、何ひとつ見てやせん。河のほとりに住んでいる人たちがどれほど河を愛し、美しい河を汚さないためにどんなに骨を折っているのか、どの河にも魚がうようよする日をどんなに待ち焦がれているのか、きみは見もしなかった。ところがおれはこの目ですっかり見とどけてきたんだ!」

「じゃあ、きみの手で書いた水域調査図に丸を書き入れたところは、いったい何なのだ」

(つづく)

短編小説「魚のために道をひらこう」記事一覧

Facebook にシェア
LINEで送る