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短編小説「労働一家」31/李北鳴

「おい、腹がすいたろうが、あいつが来るまで待とうよ。それはそうと、今日、職場でまた叱られたよ」 「まあ、どうして?」 妻はお膳に白い布をかけながら手をとめて聞きかえした。 「のろまなんだとよ、ワッハッ…

短編小説「労働一家」28/李北鳴

初めに、旋盤職場長の韓トンムが発言した。彼は切削した二つのピストン・ロットを厳密に調べた審査委員たちの一致した意見をもって壇上にあがった。 彼はまず、徐々に生産が低下しているアンモニア職場の実情を述べ…

短編小説「労働一家」27/李北鳴

「なんでしょう」 「スドルの下のことだよ」 鎮求は幼い肌がなつかしかった。だが解放前は思いもよらなかったし、むしろ出来るかと心配でならなかった。今では息子と娘を両膝にのせて昔話を語りたい鎮求の願いも、…

短編小説「労働一家」26/李北鳴

金鎮求は親爺さんと一緒に花壇に種をまいて、まっすぐメーデーに関する講演会に行き、映画を見終わって8時ごろ家に帰った。 「ご苦労さん」 妻はさっと立ち上がって夫の茶碗をとりそろえた。鎮求の服から機械油の…

短編小説「労働一家」25/李北鳴

2度も来て言うこの言葉が、本当に鎮求にはありがたかった。 鎮求の方は、明日の朝には仕上がる予定だった。もう少し動作を敏活にし、分解掃除に3時間も費やさなかったら、ちょうど達浩と同じころ終わっただろうに…

短編小説「労働一家」24/李北鳴

「金にならない仕事を、高い飯くって自分から進んで出るなんて…、あれは牛のように鈍い女だ!」 後ろ指をさしながら悪口をたたくものもいたが、人のうわさも七十五日と、いつの間にか悪口も影をひそめてしまった。…

短編小説「労働一家」23/李北鳴

夫の話はみな耳新しかった。2人の愛情はさらに深まり、家の中もだんだん明るくきれいになっていった。 「台所がきれいだと、食べ物までがうまくなったみたいだよ」 「ウフッ、もうくせになったみたいよ。ひと月1…

短編小説「労働一家」22/李北鳴

「あの家は、家風がああなんだってよ」 鎮求の隣に住む「髭もじゃ」が、あたかも自分の家の自慢話のように鎮求夫婦のことやら、家庭三角競争の話まで得意になってしゃべった。 「ほう。おもしろい家風もあったもん…

短編小説「労働一家」21/李北鳴

スドルは勉強のために一部屋を占めた。 試験が間近なせいか外で暴れる時間が少なくなったようだ。けれども外で仲間の影がちょっとでもちらつくと、もう勉強はどこへやら、さあっと駆け出して行って思う存分遊んでは…

短編小説「労働一家」20/李北鳴

それほどの暴れん坊ではあるが、金日成綜合大学までは必ずやってみせるという父親の念願は、つねに変わりはなかった。これでスドルは2学期の期末試験では優等を取るはずだった。 スドルは何気なく返事をしたが、父…

短編小説「労働一家」19/李北鳴

「それは座談じゃなく演説だよ。演説のうちでもお経を読むような演説だな」 そこに参加した親爺さんが後でこう言った。 「なんたって、みんなの前で演説することほど骨の折れることはないって」 鎮求は今まで何回…

短編小説「労働一家」18/李北鳴

「無知は破滅、知識は光明である」「学んでは働き、働いては学ぼう!」 鎮求は解放直後、こんなスローガンを見ては大きな衝撃をうけたものだった。――国の主人となった俺が明き盲とは!学んで学んでまた学ぼう!―…

短編小説「労働一家」17/李北鳴

金鎮求は原型をハンマーで叩きながら、アンモニアがいっぱいに貯えられたタンクと肥料の山を胸に描いてみるのだった。必ずそうなる――こう思いながら彼は、それを製作せよという指示が自分に与えられることを望んで…

短編小説「労働一家」16/李北鳴

「…われわれを解放してくれたソ連軍の協力と、私たちに土地を下さった金日成将軍の恩恵に報いて、国家とあなたたちにより多くの食糧を送るために、私たちは一寸の土地も残さず耕やしています。今年の食糧は心配しな…

短編小説「労働一家」15/李北鳴

「達浩!これを使えよ」 鎮求は、無駄なことをするなと言わんばかりにグラインダーのスイッチを切ってから、彼にバイトを差し出した。 「いらんよ」 達浩は素早くスイッチを入れた。 「俺には新しいバイトがある…

短編小説「労働一家」14/李北鳴

作業開始のサイレンが鳴り終わるまでに、旋盤工たちは各自の機械の前に立っていた。 まだ笑いを含んだ顔も見える。おどけ者の文三洙は、息を激しくはずませながら何回も額の汗をぬぐう。彼は相撲で5人をたて続けに…

短編小説「労働一家」13/李北鳴

それは前回の生産協議会の席上、職業同盟の増産部長と職場長とが代わるがわる強調したことであった。 その日の昼、鎮求と達浩は民主建国室において誓約書にサインした。2週間という短期間ではあるが、液体アンモニ…

短編小説「労働一家」12/李北鳴

なぜなら自分が働いているこの旋盤工場が、すべての点で有利であることがはっきりしたからであった。 それからというもの、彼は邪心を捨てて生産に熱意を入れるようになった。とはいえ、彼の心の内の不平不満が完全…