公式アカウント

短編小説「魚のために道をひらこう」30/陳載煥

2022年04月22日 09:00 短編小説

40キロ以上の一区域には養魚工は5人以下で足りること、補充飼料を作る工場に飼料工が1人、飼料を与え池を見まわり魚の生活を統制指揮する飛行機に搭乗する養魚工1人と、飼料と魚の健康状態を担当する魚の医師1人など。

養魚区域の下流にはふ化場を作り、上流には加工工場を作り、ふ化場で育った同期の魚は、順ぐりに上流へとさかのぼり、どんどん成長したら加工工場でただちに処理し、国中へ送り出す。どの河にも新しい魚の供給場が一つずつできるだろう。町歩当たり100トンのニジマスが悠々と泳いでいる虹のように美しい河は、考えるだけで素晴らしい。清らかな河底の砂利だけ見ても感嘆の声をあげていた人々は、永遠に河から目を離すことができずに老いていくであろう――

彼は、息子のこの手紙を信じた。そして、せがれの時代には必ずこの夢が実現できるように準備しておかねばならぬと思った。自分の息子は父と同じ夢を描いている。ジュンハは今日だけが現実だとして、明日も現実の中に入ることを認めないのだ。

しだいに秋が深まってきたある日、彼が魚の世話を終えて新しい池の土手を作るために石を背負っているときであった。上流からうつむき加減にゆっくりこちらへ歩いてくる人がいた。それはまごうことなくジュンハであった。彼は驚いた。ジュンハは、ぶらりと散歩に出てきたか、うるさいことから逃れてきたようにも見えた。いずれにしてもここへジュンハが姿を現したことに驚かざるを得なかった。

というのは、彼が河に稚魚を放してからジュンハは一度もそこへ姿をみせたことはなかった。それだけではなく、意識的にその話を避けていた。

ジュンハはあちこちへの出張で忙しく、たまに家にいることがあっても部屋にとじこもって、ニジマスやその他の淡水魚についての経験を書いていたのである。

いっぽう彼は、自分の手がけている仕事を成功させるために昼夜の別なく奮闘していた。

ジュンハは論文を書いているうちに、テソンが戦争中に身をもって守りつづけたニジマスの数が、11尾だったか12尾だったかはっきりしないので、本人に聞くためにやってきたのである。

彼の歩みを遅らせ、表情を硬くさせたのは、河での自然養魚が思いのほかによい成績をあげているからであった。しかし、これはあくまでも小範囲における偶然的、一時的なものとしか考えられなかった。

(つづく)

短編小説「魚のために道をひらこう」記事一覧

Facebook にシェア
LINEで送る