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短編小説「魚のために道をひらこう」36/陳載煥

2022年06月06日 08:00 短編小説

みなが駆け寄って彼の体を支えた。ジュンハはベッドのすぐわきにしゃんと立っていた。彼の顔には脂汗がにじんでいたが、鋭い視線で自分を凝視しているテソンの目をまっすぐ見ていた。

テソンは、やっとのことで、まだ血の気のない唇を動かし始めた。

「技術指導員さん、わが国で、自然養魚を心から望んでいる人が、まだほかにいますか?」

病人の顔には絶望の色はなかったが、自分が命をとりとめたことを確信していないのは明らかだった。そこで彼は、せめて死ぬ前に一生のあいだ愛し夢みてきたことがいかに大切であるかを知りたかったし、自分の一生の総決算をしたくてこう尋ねたのである。

ジュンハは、この場にのぞんで、もはや自分の気持ちをごまかしたくなかった。一時は、死の瀬戸際まで行ったこの人に対して、みにくいごまかしを言いたくはなかった。ジュンハは、テソンが危機を完全に脱したこと、遠からず自然養魚をめぐるたたかいが始まることなど念頭になくはなかった。病室内には病人を興奮させないように気をもんでいる医者や、ジュンハの答えをかたずをのんで待っている養魚工たちもいるのだ。

ジュンハは興奮を抑え、静かにきっぱりと答えた。

「自然養魚を待ち望んでいる人はたくさんいます。一般の人、人類の幸せのために働いている科学者、みな心から待ち望んでいます!」

テソンは、それ以上、ジュンハに説明を続けてほしくなかった。そして声を高めて言った。

「そんなことではない。私が聞きたいのは、自然養魚の可能性を信じている人がまだほかにいるかということなのだ!」

「います!」

この確信に満ちたジュンハの言葉に、テソンの顔にはさっと喜びの色が浮かび、自分の頭をジュンハの胸のあたりに向けて言った。

「それは、どこの誰です?」

ジュンハもしだいに興奮してきた。こうなったら自分の立場や見解の変わったことをはっきり述べなければならなかった。

「私だ! 今こそ私は、自然養魚の可能性を信じて疑いません!」

これを聞いたテソンの顔からは微笑が消えた。彼はまったく失望した。

「きみだって? 真赤な嘘だ、そんなこと」

身を震わせているテソンを、養魚工が支えた。テソンは、ジュンハの目を見つめていた。ジュンハがなんと言おうとしているのかを見通そうとしているようだった。

(つづく)

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