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短編小説「魚のために道をひらこう」35/陳載煥

2022年06月03日 08:00 短編小説

「テソンの言うことは正しい! よく聞きなさい!」

「とんでもない。愚にもつかんたわごとだ」

とっさにジュンハは、テソンのところに詰め寄った。が、このときテソンは、自分が営々としてつくり上げた養魚場をもう一度見ようと河の方を振り返ったが、身を閉じたかと思うとわきの人の胸に倒れかかった。

ジュンハの頭の中は、テソンを死なせてはならないということしかなかった。彼はテソンを抱きかかえて自動車に乗り込んだ。

車は疾風のように郡病院へと走っていった。

病院に着くとすぐ応急手当が施された。しばらくすると病室からジュンハが姿を現したが、彼の血の気の失せた蒼白な顔、光を失った目を見て、人々は心を痛めた。

やがて病室から医者が出てきたがジュンハに向かって言った。

「技術指導員さん、病人があなたにぜひ会いたいと言っています。ご存知のこととは思いますが、今は病人を絶対に興奮させてはいけないということを、念頭においてください」

これを聞いて、不安に包まれていた一同はほっとした。

ジュンハの顔を蒼白にしたのは、先刻、河原で気を失ったテソンが、意識を取り戻した時に自分をなじったあの声と、テソンの妻の刺すように冷ややかな目つきであった。

彼が命をとりとめたいま、ジュンハの耳にはテソンの言葉がよみがえってきた。そして今度は自分が手術台に上がらなければならないことを悟った。自分の欠点をなおそうとする人は、他人の手を借りる必要はない。ジュンハも自分の手で自分の胸にメスを当てようとしていた。

ちょうどこのときにテソンが会いたい、と言っていることを知り、彼は率直な態度でドアのノブを握った。

面会を許して病人を興奮させてはいかんと思った医者はジュンハを押しとどめた。

「決してご心配にはおよびません。私の話は、どんな薬よりも効き目があるでしょう!」

こう言うとジュンハは、つかつかと彼のベッドのわきに歩み寄った。廊下にたたずんでいた養魚工たちも、ジュンハのあとにつづいてぞろぞろ病室に入っていった。

テソンはキラリと目を光らせベッドに座った。医者は、激烈な中毒症のために一時は絶望状態におちいったこの病人が、どこからこんな力をさしたのか解せなかった。

(つづく)

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