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〈ウトロ放火事件〉“朝鮮人への偏見”認定するも課題残る/被告に懲役4年の実刑判決

2022年08月31日 11:29 権利

京都地裁には朝からたくさんの人が傍聴にかけつけた

在日朝鮮人集住地の京都・ウトロ地区へ放火し、計7棟の家屋を全半焼させたとして非現住建造物等放火などの罪に問われた有本匠吾(奈良県在住、無職、23)に対し、京都地裁は30日、求刑どおり懲役4年の実刑判決を言い渡した。増田啓祐裁判長は「在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人への偏見、嫌悪感に基づく独善的かつ身勝手な動機」であるとし、暴力的な手段で社会の不安をあおる被告の犯行は「民主主義社会において到底許容されるものではない」と述べた。

被告は昨年8月30日、ウトロ地区に火をつけ木造家屋計7棟を全半焼させたほか、同年7月24日には愛知県名古屋市の民団関連施設と、隣接する学校に火をつけ建物の壁面と芝生の一部を焼失させた。

この日の判決で、増田裁判長は、「被告はかねてから在日朝鮮人に対する嫌悪感や敵対感情を抱いており、その排外的な世論を喚起したいなどと考え名古屋での犯行に及んだ」と言及。しかし「事件が世間の注目を集めなかったことからより大きな事件を計画するとともに、ウトロ平和祈念館の開館を阻止するため、展示用の立て看板などが収納されていた家屋に放火した」と述べた。

また、ウトロ地区への放火により「地域住民にとっての活動拠点が失われ、その象徴とされる立て看板などの史料が焼失」したとし、被害者の精神的苦痛も大きいと強調。そのうえで、社会の不安を煽る被告の一連の犯行について「動機は甚だ悪質」「相当に厳しい非難が向けられなければならない」と量刑理由を説明した。

また、被告が法廷で発言してきた朝鮮半島ルーツの人びとに対するデマや偏見にも触れ「反省が深まっているようにはうかがえない」とも指摘した。

「一歩前進」、一方で課題も

会見のようす

判決後、ウトロ地区と民団愛知の関係者が合同で開いた記者会見で、総聯京都・南山城支部の金秀煥委員長は「社会は一歩一歩進んでいるということを、ウトロ住民に伝えられる判決だった。ほっとしている」と胸の内を明かした。ウトロの同胞たちは、植民地時代に労働力として利用され、解放後も劣悪な環境での生活を強いられたばかりか、2000年の立ち退き訴訟最高裁判決では生存権、居住権さえ奪われた。かれらにとって「事件が、偏見に基づいた犯行であると判決で認められたことは、勇気を与えるものだ」(金秀煥委員長)。

一方で悔しさもにじませた。論告求刑では、検察が被告の犯行動機を「韓国人に対する一方的な嫌悪感情」にとどめたのに対し、判決は「偏見」であると踏み込んだ判断をしたが「だからこそ、そこまで言いながらなぜ『差別は許されない』と明言できなかったのか、残念でならない」(金秀煥委員長)。

被害者側弁護団も判決内容を厳しく見ている。豊福誠二弁護団長は、検察の求刑どおりの実刑判決だったことについて「裁判所が被告の罪責を重く見ていることはわかった」としつつ「事件の動機が人種差別であることを認めない、誠に不十分な判決」であると強く非難した。豊福弁護団長は「差別は、憲法や人種差別撤廃条約で禁止されており、敵対感情などとはまったくの別物」であると強調。判決が、暴力的手段を用いた犯行は民主主義社会で許されないとした指摘についても「被告の排外主義的思想は、暴力的手段でなければ許容されるのか」とし、人種差別そのものを指摘できていないと批判した。

外国人人権法連絡会の師岡康子弁護士は「あと一歩踏み込めたら、という思いもあるが、偏見に基づく動機であると司法が認めたことは評価できる。今後はヘイトクライムに関する法整備を行い、国として人種差別撤廃のための政策を取るべきだ」と話した。

今回の判決に対しウトロ地区被害者側弁護団は、同日付の声明文を発表した。全文は別途掲載。

(金紗栄)

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