〈ウトロ放火事件〉被告に懲役4年求刑/最終陳述で脅迫まがいの発言も
2022年06月22日 09:26 権利昨年8月、在日朝鮮人の集住地である京都・ウトロ地区の家屋に火をつけたとして、非現住建造物等放火等の罪に問われた有本匠吾被告(奈良県在住、無職、22)の論告求刑公判が21日、京都地方裁判所(増田啓裕裁判長)であり、検察側は被告に懲役4年を求刑した。8月30日に判決が言い渡される。
被告は昨年8月30日、ウトロ地区の空き家にオイルをまいて火をつけ、計7棟を全半焼させたほか、同7月には愛知県名古屋市内の民団施設と、隣接する学校に火をつけていた。この放火により、当時建設中であったウトロ平和祈念館に展示予定の立て看板約40枚が焼失。被告はこれまでの公判で起訴内容を認め、一連の事件の動機を「韓国人が優遇される社会に対し問題提起したかった」などと述べていた。
この日の裁判では、被害者側3人の意見陳述、検察の論告、弁護側による最終弁論、被告による最終意見陳述があった。
法廷に立ったウトロ地区住民は「放火で家族全員が自宅から投げ出された。思い出をすべて失ったようで、言葉では表せない苦しい思いをした」と述べ、被告に対し「差別はあかん、人と人は支えあって生きていくべき。これに尽きる」と語った。
検察側は被告の犯行が「在日韓国人およびその関連団体に対して一方的に抱いていた嫌悪感等」によるものと指摘し、懲役4年を求刑。これに対し弁護側は「被告は自分を見つめなおし、考えを改めている」と情状酌量を求めた。
一方、被告は「韓国人に対する差別心を持った人は国内外にたくさんいる。(この事件を)個人の身勝手な犯行として終わらせると、次は命を失うような事件が起きるかもしれない」など、反省には程遠い脅迫まがいの発言を繰り返した。また、被害者に対する謝罪は一切なく、在日朝鮮人について「戦争被害者という一方的な理由で国民以上の支援を受けようとしている人」とも表現した。
公判後、被害者側弁護団が開いた記者会見で、豊福誠二事務局長は「(被告の発言に対し)開いた口が塞がらない。何も反省していないことがよくわかった」と述べた。また、検察側がこの日の論告で事件の動機を「嫌悪感」と表現したことに対し「朝鮮半島出身者を狙ったヘイトクライムであることは明らかだ。しっかり切り込んでほしかった」と不信感をにじませた。
ウトロ民間基金財団の郭辰雄理事長は、「被告の発言を聞いて背中がゾッとした」と話し「差別は人を殺すという認識を広めなければいけない。戦争で被害を生み出したのは人種差別でありヘイトだった。ヘイトクライムをどう規制していくのか、社会が考えていくべきだ」と強調した。
(金紗栄)
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