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短編小説「海州―下聖からの手紙」33/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

兄さん、これが手紙の全部です。 数日後、私たちは自分たちの手で敷いた線路を走って平壌に行きます。金策工業大学通信学部入学の推薦を受けたんです。私たちは運輸工学部だそうです。 それから休暇を家で過ごし、…

短編小説「海州―下聖からの手紙」30/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

かれの声は急に沈み、沈痛なおももちになりました。 「一日中、僕らは5回に及ぶ敵の反撃を退けたが大隊の攻撃信号は上がらなかった。ところが小隊にはわずか6人しか残っていなかったんだ。 みんな最後の決戦を覚…

短編小説「海州―下聖からの手紙」29/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

『詩人』と呼ばれたトンムもいたな。かれは降仙製鋼所の民青同溶解工出身だった。かれの傑作は、巨大な自動化された電気炉を主題とした詩なんだが、実に炎のごとく熱烈に、そして浪漫的に皆に読んで聞かせるんだ。小…

短編小説「海州―下聖からの手紙」28/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

チルソントンムは、無言のままただじっと坐って聞いていました。話がすんでもかれは動こうとはせず、山の下に光を放つあちこちの現場や遠くの野原と山脈を、さま感慨深げにながめるのでした。そして、私たちがいる梅…

短編小説「海州―下聖からの手紙」27/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

「ここにあるわ……」。私はノートを差し出しました。 「見てくれたの? どう、うまくいきそうかい?……」 つづけざまにこう質問するからは、一見、私の評価次第に自分が心血を注いだ考案品の運命がかかっている…

短編小説「海州―下聖からの手紙」26/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

(どうしたというのかしら?……。願書を出したので気がねして、宿舎に帰れなかったのかしら?) こう思いながらふと私は、かれの枕もとにある本に目をとめました。なんの気なしに一冊を手に取るとそれは大学ノート…

短編小説「海州―下聖からの手紙」25/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

私はパクトンムにもう一つの受話器をあげました。 「はい、だれですか? ああ、チルソントンムですか。ええ来ましたよ……」 これを聞くと、胸に張りつめた何かが急にぷつんと音をたてて切れるようでした。 「え…

短編小説「海州―下聖からの手紙」24/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

パクトンムは返事もせずに、 「ちょっと連隊指揮部に電話をかけてくれないか」と言うんです。 「え、電話? なにかあったの?」 「多分そこに行ったと思うんだ、確かめてみよう。安心して……」 「連隊指揮部で…

短編小説「海州―下聖からの手紙」23/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

「チルソントンム、遠慮することないわ。トンムはすでにりっぱな働きをしたんだし……、後のことはみんなに任せて……、それに連隊指揮部でも心おきなく行くよう言ったそうじゃないの……」 「な、なんだって!………

短編小説「海州―下聖からの手紙」22/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

そのうえ、この調子では工事が10日ないし半月は送れるというのでした。それでチルソントンムたちはこの数日、寝食を忘れあれこれ合理化と機械化案を考えたものの、これといった方法がないと言うのです。そう言われ…

短編小説「海州―下聖からの手紙」21/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

とりとめのない考えが私の心を乱しました。 兄さん、かれが職場から大学に推薦されながら、それを放棄したことは書きましたよね? ところがその頃かれはふたたび進学推薦を受けたのです。工事の竣工予定が、来年の…

短編小説「海州―下聖からの手紙」20/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

省から来た「肝っ玉の小さい技師」(これもパクトンムの表現なんです)は、私たちが夢を見過ぎると言いました。そうです、党の息子と娘である私たちは確かに空想家ぞろいです。どんな空想家たちも夢みたことのないと…

短編小説「海州―下聖からの手紙」19/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

そして、素晴らしいことに、そのパクトンムが考案し、チルソントンムとともに苦心した結果、橋脚を組立式に建造するのに成功したんです。おかげで、問題児―邑川橋は7月末どころか、7月5日に完成したのです。 第…

短編小説「海州―下聖からの手紙」18/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

「ト、トンム、気でも狂ったの!」 ドーンという音とともに私の胸もつぶれるようで、私、反射的に目をつむると叫びました。 「強度試験だよ」 おっとり答えると、もう一つかれはグワーンとたたきつけました。 驚…

短編小説「海州―下聖からの手紙」17/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

ところが不意にかれは口をつむると掘り起こした地面をじっと見つめるのです。そしてひざを折ると両手で土をひとすくいしました。 「ミョンヒトンム、いったいこれはどんな土だろう!……」 かれの声は興奮でふるえ…

短編小説「海州―下聖からの手紙」16/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

私はもうすっかりやる気をなくしました。かといって、このまま降りるわけにもいかず、急いで二つの桶をいっぱいにしました。 それから桶を背負ってかれに「入れてちょうだい」と冷たく言いました。するとかれは、盛…

短編小説「海州―下聖からの手紙」15/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

ランニングシャツ姿のかれは、地面を掘り起こすのに余念がありません。汗まみれの顔がときどき明かりに照らし出されます。かたわらの木枝に上着とカンテラがかけてあり、その下に水桶と天秤棒が置いてありました。 …

短編小説「海州―下聖からの手紙」14/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

でもかれは、一度作業に出るとまったく別人のようになるのです。つるはしを持つと、顔は輝き、背中はものさしでも当てたかのようにピシッとして、そのりりしい姿は見違えるほどなんです。そしてときにはおどけたりす…