〈青商会、挑戦と継承の足跡〉Ep.15 新たな可能性への挑戦 (1)
2023年08月24日 09:00 在日同胞青年商工人をはじめ次世代の同胞社会を担う30代同胞のネットワークを広げ、経済・生活をサポ―トする大衆団体として1995年に結成された在日本朝鮮青年商工会(青商会)。変化する時代のニーズに応え、2世、3世の同胞たちが自らの手で切り開いてきた青商会の歴史は、挑戦と継承の歴史であった。「豊かな同胞社会のために」「子どもたちの輝ける未来のために」「広げよう青商会ネットワーク」のスローガンを掲げ、在日同胞社会の発展をけん引してきた青商会の足跡を振り返る。(過去のエピソードはこちらから▶︎〈青商会、挑戦と継承の足跡〉)
コロナ禍でも絶えず「アプロ」
2019年9月の青商会第23回定期総会で選出された白赳栄新会長(現在、総聯千葉支部常任委員、千葉県商工会常任理事、46)ら23期中央青商会役員たちは大きな責務を担っていた。翌年に青商会結成25周年を控えていたからだ。
中央青商会は節目を迎えるにあたり、結成以来掲げてきたスローガン「豊かな同胞社会のために」「コッポンオリたちの輝かしい未来のために」「広げよう青商会ネットワーク」の理念に沿って革新的な事業を展開し、新たな成果を築いたうえで翌年9月末に中央青商会主催の結成25周年記念行事を1千人規模で開催しようと構想。総会から2カ月後の第1回中央常任幹事会で記念行事に向けた事業内容を発表した。
民族教育に関連した目玉事業は、世界トップクラスの教育水準を誇るフィンランドと、プログラミングなどIT教育の先進国であるエストニアへの教育視察だった。中央青商会では過去に中国やベトナムへの経済視察を実施したことがあったが、海外への教育視察は初めての試み。中央青商会としては、各地の朝鮮学校の校長や教育会会長、教育分野の専従活動家たちに教育視察に帯同してもらうことで、民族教育の現場に新たな試みやアイデアを取り入れたいと考えていた。
このほかにも、同胞ネットワークを活かし青商会の財政基盤を構築することを目的とした株式会社の設立、新たにポイント制を導入した青商会運動の展開など、さまざまな事業内容が打ち出された。常任幹事たちは23期のスローガンに掲げた「アプロ!(前へ)」の精神で記念事業を力強く推し進めていこうと決心。会議や食事会、各種イベントなどさまざまなシーンで「アプロ!」の合言葉を叫び、記念行事への士気を高めていこうとした。
しかし、日が経つにつれ行く手に暗雲が広がり始めた。12月に新型コロナウイルスの感染者が確認されて以来、世界的に感染が拡大。翌年の4月中旬には都府県で発令されていた緊急事態宣言が日本全体に拡大し、多くの社会・経済活動が機能停止に陥った。
前例に捉われず実践を
未曾有の事態に置かれながらも、青商会は決して立ち止まらなかった。
中央青商会では限られた条件と時間を鑑みたうえで、何ができるかを模索。常任幹事会や幹事会にリモート会議をいち早く取り入れ、遊技業部会「CPM」や飲食業深部会「焼肉塾」にもリモート形式でのセミナーや会議を導入した。記念行事に向けては、青商会の財政と会員の実利の確保を目指す株式会社の設立や、青商会活動に役立つ多彩な情報を掲載するWEBサイトの開設を進める一方、目玉企画の教育視察は方向性を修正し、各地の朝鮮学校間の連携を強化する方法を探ることにした。
一方で中央青商会の役員たちは、独自のアイデアをもって活動に取り組む各地の地方及び地域青商会の姿に大きな力をもらったという。コロナ禍の最中で繰り広げられた活動内容は多岐に渡った。マスクや消毒液の配布、学校の消毒作業、オンラインでの美術展やクイズ大会、川柳コンテスト、同胞飲食店応援企画…。
「各地の青商会が活動方法を探りながら、他地域の成功モデルを積極的に取り入れていった。そうして青商会全体に自発的な典型創造運動、『追いつけ追い越せ・経験交換運動』が展開されていった」(中央青商会の裵昶烈幹事長)。中央青商会はこの間、LINE公式アカウントを活用し、青商会運動の状況や各地の活動内容を積極的に配信。各地の会員たちのつながりを強化し、青商会活動の機運を高めていった。
20年9月5日、朝鮮大学校では第24回定期総会と青商会結成25周年記念放送「アプロ!」が行われた。新型コロナウイルス感染防止のため、総会と記念放送の開催にはリモート形式が取り入れられた。中央組織の総会や記念行事をリモート形式で行うという試みは、過去に前例がなかった。実際のところ、重要行事のリモート開催に対して眉をひそめる人たちもいた。
しかしながら総会には、本会場と41カ所のリモート会場合わせて約550人が参加。かつてない人数の会員たちが総会の場を共にしたことで青商会活動のビジョンはより広く共有された。また、青商会OBや地域同胞らも記念放送を視聴できるようにしたため、青商会が提示した新事業の内容、青商会結成30周年に向けた構想に多くの関心が集まった。
コロナ禍において斬新な発想と大胆な行動力を見せてきた青商会は、総会と記念行事の開催を通じても同胞社会に新たな活動方式を示してみせた。
先代が築き上げた伝統
青商会活動は24期に入ってもコロナウイルス感染拡大の影響を受けたが、23期に培った経験と教訓をもとに各地で多彩な活動が展開された。
中央青商会では結成25周年記念放送で発表した教育視察事業の内容に沿って、少人数学校の児童・生徒たちをつなぐICT遠隔授業の導入方法を模索。生徒数減少を克服するため遠隔授業を取り入れている長野県の小学校を視察し、その後、長野県青商会と三重県青商会の協力のもと長野初中と四日市初中の初級部1年生のクラスを遠隔で繋げる試みを実施した。
また、役員強化において重要な祖国訪問団を組織できない状況下でも、役員学習会で用いる資料KYCファイルの質と内容を洗練させ、ブロック別役員研修会をリモート形式で開催するなどして役員たちの意識向上に注力。その過程で地方および地域の役員たちが各地で地道に活動した結果、23期に比べて会費を出す会員の数、交流網と情報網に網羅する会員数を拡大する実績を残した。
中央青商会の白赳栄会長は、自身が会長を務めた23、24期を「試行錯誤の繰り返し」だったと振り返る。一方でこの期間は、青商会の伝統がいかに築かれてきたかを深く実感した日々でもあったという。
「青商会結成25周年を控えて中央会長を務めた先輩たちに会い、各期の活動エピソードを聞いたが、いつの時代も満足のいく環境が整っていたわけではなかった。しかし歴代の先輩たちはさまざまな可能性に挑戦し、『逆境を順境に変える』という精神で困難を乗り越えてきた。そのようにして築かれた土台があったからこそ、青商会の歴史に類例を見ない危機的状況に晒された期間にも青商会活動を絶えず繰り広げていくことができた」
こうして、どのような試練に直面しても団結して前へと進んでいく青商会の伝統は、21年9月の第25回定期総会を機に25期(中央青商会・崔炳琥会長)へと受け継がれていった。
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コロナ禍で新たな可能性への挑戦が進んでいた24期には、ウリ民族フォーラムを通じても、これまでにない試みがなされようとしていた。その試みとは、都道府県単位の地方青商会が主管してきたフォーラムを地域青商会を中心にして開催しようというものだった。
(つづく、李永徳)