〈青商会、挑戦と継承の足跡〉Ep.14 未来へのビジョン (2)
2023年08月07日 08:00 在日同胞青年商工人をはじめ次世代の同胞社会を担う30代同胞のネットワークを広げ、経済・生活をサポ―トする大衆団体として1995年に結成された在日本朝鮮青年商工会(青商会)。変化する時代のニーズに応え、2世、3世の同胞たちが自らの手で切り開いてきた青商会の歴史は、挑戦と継承の歴史であった。「豊かな同胞社会のために」「子どもたちの輝ける未来のために」「広げよう青商会ネットワーク」のスローガンを掲げ、在日同胞社会の発展をけん引してきた青商会の足跡を振り返る。
「ALL九州ハナロ」の精神
兵庫県青商会が2018年のフォーラム開催へと動き出していた16年、実はもう一つの地方青商会も開催に名乗りを上げた。九州青商会だ。18年のフォーラムは結果的に兵庫県青商会が主催することになったが、九州青商会は16年11月に民族教育応援企画である文化コンサート「ハナロ」を福岡県飯塚市で開催(実行委員長:朴栄哲直前会長)した。目的は、同胞たちの民族心と学校愛に火をつけ、青商会会員、専従の活動家や教員らの気持ちにも呼びかけることで民族教育事業を発展させる契機を設けることにあった。
九州青商会はこの準備過程で一大同胞訪問活動を展開。当日には県内の朝鮮学校の園児・児童・生徒、青商会会員ら300人が舞台に出演し、保護者や同胞など800余人が観覧した。実行委員たちが口々に語っていたように、コンサートはまるで「小さなフォーラム」だった。
「ハナロ」を合言葉に掲げたコンサートは同胞たちの意識を民族教育に向けるきっかけになった。しかし、同胞たちの団結に大きな変化は見られなかった。朴潤浩会長(現在、総聯八幡支部常任委員、47)が実感していた通り「同胞社会全体に広がる諦めを払拭できていなかった」。このような状況を打開するためには、同胞たちの気持ちを改めて結集させる必要があった。九州青商会は議論の末、かねてより話が持ち上がっていたフォーラムの開催を決断。スローガンには「ALL九州ハナロ」を掲げた。
企画に関する議論の過程で難題が降りかかった。役員たちが膝を交えて議論を重ねたが、「どうすればALL九州を実現できるのか」という問いに対する答えが中々見つからなかったのだ。辿り着いた結論は「答えは同胞の中にある」ということ。こうして九州7県に散らばる同胞1千戸を訪ねて回る訪問活動が展開されることになった。
肌で感じた厳しい現実
九州青商会には同胞訪問活動に慣れている会員はほとんどいなかった。しかし、訪問活動で物を言ったのは経験ではなかった。
遠賀地域青商会の会長は日本学校出身ながら率先して訪問活動に励み、遠賀で100戸、近隣の若松で20戸を訪問。同胞宅を訪ねる際「『支部』や『青商会』を名乗ってもうまく伝わらなかった」という理由で「朝鮮総聯」を名乗り、地域同胞たちの間で大きな話題になった。この活動ぶりは他の会員たちを感化し、九州青商会の訪問活動を加速させる起爆剤となった。また、ALL九州企画部事務局長を務めた地域青商会の若手幹事はビジネスで培ったフットワークの軽さを生かし「同胞たちに受け入れられるかわからないけど、訪問するだけならタダ」と大分や佐賀などの同胞宅を何度も訪れた。
九州青商会は「ALL九州ハナロ」の精神を体現するため、あらゆる手を尽くして九州各地の同胞たちを訪ねて回った。同胞数が九州で2番目に多い大分では、福岡在住の会員を含めた13人で手分けして1日で100戸以上を訪問する「ローラー作戦」を決行。一方、九州北方の玄界灘に位置する長崎県対馬に同胞が住んでいると聞くや、フェリーに乗って現地に向かった。
訪問活動の過程には、いくつかの県で同胞名簿が何年も更新されておらず、名簿上の住所に同胞が住んでいないことが少なくなかった。また、同胞たちからは「この期に及んでなんだ。金を集めに来たのか」「総聯から人が訪ねてくるのは何年ぶりか」というきつい言葉も聞いた。
地元の厳しい現状を改めて目の当たりにした大分、佐賀、熊本などの地域青商会の役員たちは忸怩たる思いに駆られながらも、フォーラムの準備活動にひたむきに取り組んだ。そんなかれらの苦悩や葛藤に触れた福岡在住の役員たちは、訪問活動を機に青商会活動に取り組む自分たちの姿勢を顧みた。フォーラムの準備期間は、九州青商会の会員たちが九州同胞社会が置かれた現実を肌で実感しながら、自分たちが果たすべき役割を模索する日々だった。
未来を照らす「火種」に
この間、同胞過疎地域の県を訪ねた九州青商会の会員は全体のおよそ3分の1にあたる約40人にのぼった。かれらが身にしみて思い、青商会全体で共有されたことがある。それは“Face to Face”の重要性、すなわち同胞たちと顔と顔でつながることがいかに大切かということであった。
九州各地を回った金健昊副幹事長(現在、総聯戸畑支部常任委員、42)によると、何人かの同胞には冷たい対応をされたものの、大体の同胞たちは「ようきてくれた。飯でも食っていけ」「若い世代の頑張っている姿を見ていると本当に嬉しい」などと温かい言葉をかけてくれ、幇助金を渡す同胞もいたという。「過疎地域の同胞たちは、同胞同士の繋がり、同胞コミュニティーの温かみを求め、子どもたちを朝鮮学校に送る方法も模索していた」(金健昊副幹事長)。
「ALL九州ハナロ」を実現するヒントは、確かに同胞たちの中にあった。しかし、同胞たちのニーズを形にする力量が足りていなかった。だからこそ九州青商会は、九州同胞たちの要求と期待に応えながら一人ひとりの力を結集させていくために、自らがその役割の一端を担っていこうとした。実行委員長を務めた朴潤浩会長がフォーラムのフィナーレで強調したように、次世代の未来を照らす「火種」になろうとしたのだ。
九州青商会はフォーラム後も「ALL九州ハナロ」をスローガンに掲げ、金敏寛新会長(現在、九州初中高教育会理事、42)を中心としながら九州同胞たちの心に火を灯していった。
朝鮮学校に対する財政支援の幅を広げようと、毎年開催していたチャリティーゴルフコンペを20年から「ALL九州ミレカップ」という名称で九州5カ所で開催。また、22年に迎えた結成20周年記念事業を推進する過程には、九州同胞たちに朝鮮学校の重要性を再認識させ、同胞社会の明るい未来を共に切り開いていこうというメッセージを届けるため、福岡県内の朝鮮学校の児童・生徒らと福岡朝鮮歌舞団がともに出演する「ハナロツアーステージ セシデ」を大分、佐賀、鹿児島で開催した。一連の事業でも、青商会活動の根幹を成したのは“Face to Face”の訪問活動、同胞たちと顔を合わせ心で繋がることであった。
昨年9月の青商会第26回総会で8年ぶりに最優秀地方KYC賞を受賞した九州青商会は、その1カ月後に結成20周年記念式典を開催。歴代の役員や現役会員たちが一堂に会した式典では、李慶鎬会長をはじめ、フォーラムの準備過程で台頭が目覚ましかった世代が新たな役員に選出された。新役員たちは引き続き「ALL 九州ハナロ」をスローガンとし、その精神を具現化していこうと心を燃やしている。
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各地の青商会が未来へのビジョンを実現するため奮闘し続ける中、2020年からのコロナ禍は青商会活動に大きな影響をもたらした。しかし、青商会の役員たちは未曾有の事態においても下を向くことなく、変わらぬ決意で地道な活動を繰り広げた。
(つづく、李永徳)