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短編小説「海州―下聖からの手紙」13/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

私は桶を背負って1号橋脚を掘る一小隊のなかに混じったんですが、そのとたん、小隊の雰囲気がなぜか、ひどく重苦しいのを感じたのです。 「諸君、女ねずみのお出ましだぞ!……」 いつもならこうちゃかすパクトン…

短編小説「海州―下聖からの手紙」10/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

「チルソントンム、早くご飯をよそってくれない?」 この言葉にやっと我に返ったかれは、「あっそうか」とぎこちなく笑うと、急いで釜のふたをあけたんです。とたんに胸を突くようなにおいがあたりに漂いました。か…

短編小説「海州―下聖からの手紙」9/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

勢いづいたかれは、テントを吹きとばさんばかりの大声でこう叫ぶと、受話器を交換台の上に放り投げ、一目散に外へとび出しました。交換台には、使いものにならなくなった帽子が忘れられたままでした。それを持って追…

短編小説「海州―下聖からの手紙」8/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

工大という言葉に、かれは一瞬体を固くしました。そして交換台の一角を射るような鋭いまなざしでじっと見つめるのでした。まもなく顔を上げたかれは決然たる態度でだしぬけに「中隊長同志!」と呼ぶのです。これには…

短編小説「海州―下聖からの手紙」7/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

「どうしたんです? 電話が切れてしまうわ……」 「もしもーし、どこだね? そちらは」 これを聞くと、かれは決心したように、空咳を二つ三つすると口を開いたんです。 「党委員長同志ですか?……、えー、ここ…

短編小説「海州―下聖からの手紙」6/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

「……わかりました……」 蚊の鳴くような声で一言こうつぶやいてとぼとぼ歩きだしたかれを、私は知らぬ間に追いかけていました。 かれは巨体を引きずるように、夕日が差し込む松林の細道を歩いていました。そんな…

短編小説「海州―下聖からの手紙」5/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

でもどうしようもないので、「それは無理なんです……」 私は一言一言区切るようにはっきり答えました。 「駄目なんですか……」 瞬間、かれの目は大きく見開かれ、両の瞳には失望の色が漂うのでした。かれは何か…

短編小説「海州―下聖からの手紙」4/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳

大隊長はいぶかしげに声のした方を眺めました。 「うーむ、トンムか……よろしい」 大隊長はどうしたわけか口元に笑みを浮かべてうなづきました。 (チルソン?)。私も心当たりのある名だったのでよく見ると、案…