短編小説「海州―下聖からの手紙」15/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年07月31日 09:00
ランニングシャツ姿のかれは、地面を掘り起こすのに余念がありません。汗まみれの顔がときどき明かりに照らし出されます。かたわらの木枝に上着とカンテラがかけてあり、その下に水桶と天秤棒が置いてありました。 …
短編小説「海州―下聖からの手紙」14/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年07月30日 09:00
でもかれは、一度作業に出るとまったく別人のようになるのです。つるはしを持つと、顔は輝き、背中はものさしでも当てたかのようにピシッとして、そのりりしい姿は見違えるほどなんです。そしてときにはおどけたりす…
短編小説「海州―下聖からの手紙」13/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年07月01日 09:00
私は桶を背負って1号橋脚を掘る一小隊のなかに混じったんですが、そのとたん、小隊の雰囲気がなぜか、ひどく重苦しいのを感じたのです。 「諸君、女ねずみのお出ましだぞ!……」 いつもならこうちゃかすパクトン…
短編小説「海州―下聖からの手紙」12/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年06月29日 09:00
ヌーボーとしたかれのどこにあんな美しい気持ちと素晴らしい情熱がひそんでいるのかしら? 私はいつかかれに「どうしてトンム、この突撃隊に……」と言った分の言葉を思い出し、自然と顔が赤くるのでした。(なにし…
短編小説「海州―下聖からの手紙」11/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年06月27日 09:00
(いったい、どういうことなんだ?)。こんな周囲の雰囲気などまったく気にもとめず、チルソントンムは着替えもせずにポケットから大事にしまっておいた手帳を取り出すと、「指揮」し始めたんです。 (「三段飯」よ…
短編小説「海州―下聖からの手紙」10/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年06月25日 09:00
「チルソントンム、早くご飯をよそってくれない?」 この言葉にやっと我に返ったかれは、「あっそうか」とぎこちなく笑うと、急いで釜のふたをあけたんです。とたんに胸を突くようなにおいがあたりに漂いました。か…
短編小説「海州―下聖からの手紙」9/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年06月23日 09:00
勢いづいたかれは、テントを吹きとばさんばかりの大声でこう叫ぶと、受話器を交換台の上に放り投げ、一目散に外へとび出しました。交換台には、使いものにならなくなった帽子が忘れられたままでした。それを持って追…
短編小説「海州―下聖からの手紙」8/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年06月21日 09:00
工大という言葉に、かれは一瞬体を固くしました。そして交換台の一角を射るような鋭いまなざしでじっと見つめるのでした。まもなく顔を上げたかれは決然たる態度でだしぬけに「中隊長同志!」と呼ぶのです。これには…
短編小説「海州―下聖からの手紙」7/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年06月19日 09:00
「どうしたんです? 電話が切れてしまうわ……」 「もしもーし、どこだね? そちらは」 これを聞くと、かれは決心したように、空咳を二つ三つすると口を開いたんです。 「党委員長同志ですか?……、えー、ここ…
短編小説「海州―下聖からの手紙」6/キム・ビョンフン作、カン・ホイル訳
2022年06月17日 09:00
「……わかりました……」 蚊の鳴くような声で一言こうつぶやいてとぼとぼ歩きだしたかれを、私は知らぬ間に追いかけていました。 かれは巨体を引きずるように、夕日が差し込む松林の細道を歩いていました。そんな…