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〈今月の映画紹介〉燃えあがる女性記者たち/リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ監督

2023年07月26日 09:30 文化・歴史

”正しく力使う”女性の軌跡

「今月の映画紹介」では、上映中または近日公開予定の注目映画を、月に1度、紹介します。

 

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カースト制度。少なくとも筆者は、実態として目の当たりにしたことはない。近年、日本ではスクールカーストのように、ある社会や組織の中で「序列」が形成され、階層化した状況を指す際に聞かれる言葉だが、長い間、社会を覆う身分制度として人々の意識に深く浸透し、いまも差別や不可触の慣行が根強い国がある。本作の舞台、インドだ。

映画『燃え上がる記者たち』(Writing with Fire)は、最下層カーストの被差別民であるダリト(壊された・抑圧された人々を指すヒンドゥー語)の女性たちを主人公に、かのじょたちが立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」(2002年創刊)の活動を描いたドキュメンタリー。

インド北部、国内で最も人口の多いウッタル・プラデーシュ州に拠点を持つ新聞社「カバル・ラハリヤ」(“ニュースの波”という意味)は、創刊15年目を迎え、紙媒体からSNSやYouTube の発信を主とするデジタルメディアとしての新たな挑戦を始める。

カーストそのものを内在化する人々は、男性たちが「学のある女性」を求める一方で、結婚した女性は仕事に就くことが「通常」許されないため、女性たちは何のための「学」なのかと嘆く。そうした概念が固定化するインド社会で、最下層の女性たちが立ち上がり変革の波を起こそうと設立した「カバル・ラハリヤ」。デジタルメディアへと舵を切った同社配信のYouTubeは、撮影を開始した16年以降、再生回数が膨れ上がり、今では1億5000万に達するほど内外に広く話題を呼ぶ媒体となった。

大手メディアが報じない政治家や警察の汚職、反社会的勢力の存在、女性に対する暴力やレイプ事件、社会的少数者への残忍な抑圧まで…。インドの概念に少なくない変化をもたらしてきた女性記者たちは、「貧困と階層、そしてジェンダーという多重の差別や偏見、さらには夫や家族からの抵抗にあいながらも、粘り強く小さな声を取材していく」(公式HPより引用)。

扱うテーマもさることながら、ペンをスマートフォンに持ちかえたかのじょらがみせる仕事に対する信念には、示唆するものが多い。主任記者を務めるミーラが「ジャーナリズムは民主主義の源だ。責任を持って正しく力を使うの」とまっすぐな瞳で語る姿は、権力を持つメディアそしてジャーナリズムの定義とは何かを改めて考えさせる。

同作のメガホンを握ったインドの映画監督、リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュの二人は「(ダリトは)ときに上層のカーストの道を遮っただけでリンチを受けるような、世にも残忍な抑圧と暴力を日々耐え忍んでいる。だからまず、ダリトの女性であることの意味を想像してみてほしい」「(映画は)地方のこうした女性たちが、すでに競争力をもつ上流カースト男性に支配されたメディア業界で自身の成長戦略を描いた」と語る。

米アカデミー賞長編ドキュメンタリ一賞にノミネートされるなど、世界各地で高評価を得る同作。9月中旬より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開予定。

(韓賢珠)

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