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〈今月の映画紹介〉福田村事件/森達也監督

2023年09月20日 09:00 文化・歴史

‶朝鮮人なら殺していいのか″

「今月の映画紹介」では、上映中または近日公開予定の注目映画を、月に1度、紹介します。

©「福田村事件」プロジェクト2023

1923年9月1日、午前11時58分、マグニチュード7.9の巨大地震が関東一帯を襲った。その被害は甚大で、10万人以上の死者、行方不明者を出したといわれる。その関東大震災時、6千人を超える朝鮮人たちが命を落とした。自然災害ではなく、国家的な集団虐殺によってだ。

震災後、「朝鮮人が井戸に毒を投げた」「朝鮮人が各地で放火して暴れまわっている」と流言飛語が広がった。発信源は日本政府だった。電報で日本各地に向け流言を打電し、戒厳令を施行。震災の影響で混乱に陥った人々はその流言を耳にし、在郷軍人会、青年会、消防団を中心に自警団を結成した。

©「福田村事件」プロジェクト2023

官民一体の朝鮮人狩りが各地でおきる中、地震発生から5日後の9月6日、香川県三豊郡(現観音寺市・三豊市)から来た被差別部落出身の15人のうち、妊婦や子どもを含めた9人が朝鮮人と間違えられ虐殺された。千葉県東葛飾郡福田村(現野田市)の利根川沿いで起こったこの事件は、「福田村事件」と呼ばれる。その「福田村事件」を描いた本作は、震災から100年に際して制作、公開された。

作中では、差別を受け、虐殺される朝鮮人や、朝鮮人を蔑視する日本人など、当時の「不逞鮮人観」がさまざまな登場人物の視点を通じて描かれる。朝鮮での生活経験がある日本人夫婦、「不逞鮮人観」にまみれた盲目的な軍人、「日本人だから殺したらだめだ」と主張する者、「朝鮮人なら殺していいのか?」と問いかける者。大多数が根拠のない噂を信じる中で、朝鮮人をかばおうと「葛藤」する一部の良心的な日本人たち。各々の考えが錯綜する様は、集団心理の恐ろしさと、当時の狂騒をリアルに伝えている。

私たちが忘れてはならないのは、「福田村事件」の犠牲者は9人の日本人であったが、それより多くの朝鮮人が国家的なジェノサイドの犠牲となったことだ。土地を奪われ異国の地に渡り、名前や言葉までも奪われ、悪条件下で労働を強いられた挙句の果てには、身体中を痛めつけられ為す術なく殺された朝鮮人犠牲者の存在を忘れてはならない。そして、その虐殺を主導したのは、今日まで事実を隠ぺい、わい曲し続けている日本政府だったということも。

©「福田村事件」プロジェクト2023

森達也監督は3日、大阪で行われた舞台挨拶で「20年以上前に福田村事件を知って、ドラマ化を目指したが、テレビでの放送は拒否された。その後、映画の企画書を作り映画会社を回ったが、どこも受け入れてくれなかった」と語った。関東大震災時の虐殺について公に触れることのハードルの高さが知れる。100年に際し本作のような作品が出来たことは前進とも捉えられるが、一方で作中において朝鮮人虐殺についてのより踏み込んだ言及ができないその限界性は、日本社会の大きな問題として向き合っていく必要があるだろう。映画はテアトル新宿、ユーロスペースほか、全国ロードショー中。

                                        (朴忠信)

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