〈学美の世界 10〉子どもたちの心が作品に宿る/曺昌輝
2019年07月26日 14:04 文化児童・生徒が作品に対して真摯に向き合うほどに作品に児童・生徒の心が宿る。それぞれの児童・生徒が持つ個性が作品に現れるのだ。われわれはそんな作品から感じるその心に惹かれているのではないだろうか。
学美の展示にはそんな作品たちがところ狭しと飾られ展覧会に訪れた人々の心をつかんで離さないのだ。
◇
紙粘土と木の板を組み合わせて作られたこの作品(作品1)。
床や壁、そしてたたずむ家に見える曲線は美しく、作品全体が黒くイメージカラーに染められ、児童がバットマンを見て感じるカッコよさやミステリアスな雰囲気がよく表現されていて作品を通してそれが伝わってくる。
作品全体が黒く染められてはいるが、よく見ると黒く塗る前に赤や緑に塗っていることがわかる。最初は違う色を塗る予定だったのかもしれない。だが、学生が作品と向き合いながら、あれでもないこれでもないと少しずつ今の姿になっていったのだろう。
楽しみながら、考えながら作っている授業中の児童の姿を想像することができる魅力的な作品だ。
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中学に入ると生徒たちは多感な時期に入り意識のベクトルが自分から世界に向かい始め、急激に成長し、それが作品にも影響を与え始める。成長の過程に生まれる生徒たちの持つ思想や考えを作品から感じるのも一つの魅力ではないだろうか(作品2)。
この作品の鮮やかな色彩ときれいなデザインに誰もが目を留めるだろう。だがそれだけではない。
作品を見てみると画面上には幾つもの色鮮やかな世界が広がりその中心には人影が見える。ここは各々の持つ精神世界であろうか。世界の様相は一つとして同じものはなく、各人の「主張」がそれぞれの世界に個性をあたえ彩りを与えている。
だが片隅に一カ所だけ他とは異なる暗く狭い世界がある。世界を拒絶しているのだろうか。中にたたずむ人はうまく「主張」ができていないようだ。表情は描かれていないが自分の中にある秘めた魅力を「主張」できないまま周りの世界を羨ましそうに見ているように感じる。それとも違う周りを意識しすぎたために自分の持つ魅力を見失ってしまっているのだろうか。
見れば見るほどに画面全体から作者の「主張」が伝わってくる魅力的な作品だ。
◇
高校生の作品を見ると、作品に自分の考えや主張を込めるだけにとどまらず、それを積極的に発信しようとする意図を汲み取ることができる。この作品もそうだ(作品3)。
作品の中央では苦しむ人の痛々しい姿が助けてを求めるように手を伸ばしている。しかし周りに描かれている青白く透けた無数の手はどれも差し伸べようとしているようには見えない。手から生えた目も見て見ぬふりだ。
よく見ると、助けを求めるその瞳にはガラスが埋め込まれている。作品を見るわれわれの姿がその目に映るとき、助けを求めるその手はわれわれに向けられていることに気づくのだ。
苦しんでる人を前にしたとき、どうしていますか?
人は見て見ぬ振りをしがちです。助けているようでそうではありません。
あなたはそれらから目を背けていませんか?
この作品のコンセプト文を読むと、生徒の主張が作品に表現されているのがよくわかる。
生徒の問いかけが、画面からの迫力が、見ているわれわれを離さない。「それでいいのか?」と。
(在日朝鮮学生美術展中央審査委員・京都中高美術教員)
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