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〈学美の世界 40〉目のある風景/金誠民

2022年04月25日 16:25 寄稿

思春期の頃、造形表現の世界に身をおく者は、他では味わえない特別な経験ができる。

それは真っすぐに何かを「見る」経験である。

ある造形が始まった。表現者は、自らが求めるままに「イメージのまな板」の上に素材をおいてみる。

あれもこれもと出来上がりを想像しながら構想を楽しむ。

イメージのまな板の上に積まれた素材(事柄)は次々と目によってさばかれる。

作品1 「私にしか見えないもの」2021学美展 金賞 大阪中高中級部2年(当時) 高花蓮

目の前にある事柄は、どれも移ろいゆくただの現象(作品1)。

若き表現者の目は鋭く、大人が一生懸命に作り上げた概念の皮をデロリと剝がし、内側にある身をむき出しにする。それは、ある事柄にたいして世の中が共有する「みんなの意味」と呼応しながらも「自分にとっての意味」をみつける探求である。それは、自分の破片を自分で集めていく大切な過程である。

イメージのまな板の上で鍛えられた「目」は、フットワークが軽く、千里眼となって飛んでいく。

野こえ、山こえ、谷こえて、いろんなところを駆けぬける。そして、ひょろりと絵の中に現れる。

作品2 「涙の雨」2021学美展 金賞 広島初中高中級部2年(当時) 金祥赫

ある日、空に目があった(作品2)。

それは、静かに閉じたまま、青く澄んだ玉を落とした。

玉はみなもに丸く伝わり、悲しい紋を刻んで消えた。

作品3 「欲望」2021学美展 銀賞 千葉初中中級部3年(当時) 李輝大

ある時、大地に目があった(作品3)。

それは、まっすぐ見開いて、赤く濁った雫をこぼす。

雫はひどく乾いたひび割れの中で、優しい怒りを沸きたてた。

作品4 「視線」2021学美展 金賞 東京第1初中中級部1年(当時) 高鮮恵

ある朝、近くに目があった(作品4)。

それは、ゆらゆら揺れながら、白い背中を突き刺した。

いつもの日常に問いをたて、あるべきすがたを手繰りよせる。

△  △

若き表現者の目は、自分の鼓動にいつも忠実である。

だからと言って彼らはけっして傲慢ではない。

それどころか、世の中に寄り添いながら、世の中との付き合い方をいつも模索している。

世の中を輪郭に沿って夢中に模索していると、光の届かない深淵に突きあたる時がある。

「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている」(フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』より)

なるほど、深淵をのぞく者は、深淵にとらわれてしまう恐れがあるという。

でも、心配することはない。若き表現者が深淵をのぞく時、いつも隣に仲間(理解者)がいる。

だからこそ、若き表現者は思いのままに深淵に光をあてる。

そうじて、思春期の頃、造形表現の世界に身をおく者が味わう特別な経験である。

(在日朝鮮学生美術展中央審査副委員長、尼崎初中、神戸初中美術専任講師)

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