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〈現場への「入口」・4〉間近で目にした存在意義/宮城県商工会

2022年11月20日 08:30 民族教育

未来の人材に学ぶ

実習生たちは、県商工会理事たちの前で研究発表を行った

今年、宮城県商工会(以下、県商工会)には、経営学部から2人の実習生がやってきた。取材にあたり、商工会の職員と事前に共有したスケジュールリストには、ほぼ空欄がなく、1日の日程と実習期間の日程がびっしりとつまっている。

出勤後、朝礼、朝鮮新報学習、前日の活動報告を経て、午前・午後・夕方の業務が細かく組まれており、期間中には、同胞商工人や業者への訪問、商工会がサポートする企業の財務・労務といった業務のほか、大学で学んだ研究を理事会役員らの前で発表する研究発表の時間も設けられた。

朝礼後の朝鮮新報学習のようす

「実習を学生第一主義でやるにはどうすればいいのか」。県商工会の金成吉理事長(40)はそう語りながら、今年度の実習生を迎えるにあたり、事前に行った準備について聞かせてくれた。

今から2年前、現在、部員として働く韓忠亨さん(24)を実習生として迎えた県商工会では、当時、約15年ぶりの実習生を迎え入れるにあたって、試行錯誤が重ねられた。今回の実習生受け入れは、それ以来のこと。当時を振り返り、「自分や趙顕明次長は政治経済学部出身で、その経験をもとに行った部分が多かった」と金理事長。「よくよく考えてみると、経営学部出身の学生たちが何を考え、学部としても何を求めているのか、しっかりわかってこそ意義深い実習生活になると考えた」。

商工会の職員とともに、同胞企業を訪問しミーティングを行った

そこで今回は、事前に意見を集めようと当事者間でのズーム会議を実施。実習期間に学びたいことや、学生たちの研究内容など、リサーチをもとに職員たちが協議し、「実務をするにしてもその意義を考えられるように、ただこなすのではない、より立体的な実習案」が完成した。

実習初日、金理事長は2人の実習生たちに、こう話したという。「どんな状況下でも、その状況を良くも悪くも変化させるのは自分自身だ。実習期間にそれを実感できるかはわからないが、沢山のアンテナをはって感じ、学んでほしい」と。

研究発表に臨む李炫辰さん

これほどにも力をいれるのにはわけがあった。

「わたしたちも未来の人材である学生たちから学び、かれらから学んだものを会員たちの実利につなげる。宮城県商工会組織の水準向上のために、すごく良い機会、ありがたい機会だと考えた。もう一点は人材確保。東北朝高が休校となって以降、自前の卒業生を確保できない状況で、実習を通じてつながりをつくり、卒業後に宮城同胞社会をともに盛り上げてくれる人材に出会えればとの思いだ」(金成吉理事長)

“かっこいい”背中

慣れない財務処理に励む実習生たち

実習期間中の10月18日から20日にかけて、商工会事務所を訪ねると、崔勝巽さん(愛知朝高卒)と、李炫辰さん(広島朝高卒)の2人がすでにパソコンに向かっていた。

財務処理の最中で、慣れない作業に頭をひねっている。作業がひと段落し、実習の感想を尋ねると「現場にきて初めて商工会がどういう組織なのかを知ることができた」と口をそろえた。

「実習をとおして社会に出たらどのような可能性が広がっているのか、さまざまな同胞企業の体験から直に学んでいる」(崔さん)

「勉学での知識と、実務での知識はイコールにならないことを痛感した。それに趙顕明次長や韓忠亨部員の働く姿をみながら心底『かっこいいな』と感じた」(李さん)

生活指導を担当した韓忠亨さん(中央)と崔勝巽さん(左)、李炫辰さん(右)

信用組合に勤める父親の影響から、大学卒業後には「地元・三重の信用組合で働きたい」と考えるようになったと話す崔さんだが、それは「『同胞社会のために』という気持ちで選択していたわけではなかった」。けれど実習を通じて、たくさんの同胞たちと会い、話し、接することで、その考えに変化があったという。「実習生のためにと、同胞たちが思いやってくれる姿を間近でみながら、自分が育つ過程で受けた同胞たちの愛を思い起こした。卒業までに、地元の同胞たちにも会って、自分の人生観を考えたい」(崔さん)。

李さんもまた、地元・愛媛同胞社会の活性化のために、自分がどのような役割を果たすべきか、個の幸せの延長線上にある同胞社会の未来を見据え、新たに考え始めている。

「商工会が在日同胞社会の経済面を支える存在だから必要、これは知識として学んだことだ。けれど実習にきて感じたのは、商工会が同胞たちにとって身近だということ。同胞たちの財務や労務、そして生活と密につながり支えている。この存在意義を学んだ意味の大きい実習だった」(李さん)

関係者の声

県商工会職員 韓忠亨さん(24)

朝大経営学部に入り、在日朝鮮人として、同胞のために貢献できる人になりたいと、思うようになった。その過程には、大学4年次に経験した宮城県商工会での実習もあった。地元を離れて送る2年目の社会人生活は、大変なことも多いが、同胞たちとの温かいつながりを感じる日々だ。実習生たちにとっても、県商工会での経験が進路を決めるうえで糧になることを願っている。

県商工会職員 劉順和さん

この間、共に働いた同僚としての立場よりも、東北初中に子どもを送る保護者の一人として思うのは、宮城という場所に、学校があり、同胞が暮らしていて、商工会はじめ同胞組織があるということ。小さな地域でも、学校や同胞たちのために組織を守っていることを忘れないでほしい。その事実を心にとめて、活躍してほしい。

(韓賢珠、終わり)

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