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〈今月の映画紹介〉ぼくとパパ、約束の週末/マルク・ローテムント監督

2024年11月28日 10:00 文化 社会

成長描く「推しチーム」探し

「今月の映画紹介」では、上映中または近日公開予定の注目映画を、月に1度、紹介します。

昨年ドイツで公開され、100万人を動員する大ヒットを記録した映画『ぼくとパパ、約束の週末(原題:Wochenendrebellen)』が今月15日に公開された。

©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH

幼い頃に自閉症と診断されたジェイソンは、⽣活に独⾃のルーティンとルールがあり、それらが守られないとパニックを起こしてしまう。そんなかれのこだわりは理解されず、学校でも度々トラブルが起きていたある日、クラスメイトから好きなサッカーチームを聞かれるジェイソン。「推しチーム」があるのは当然かのように友人らに言われるが、訳がわからず結局答えることができなかったかれは、家族に思いもよらない提案をする。

ドイツ国内の全サッカーチームを直接見て、好きなチームを決めたいというのだ。その数は、1部から3部リーグまで全56チーム。これまで育児を妻任せにしていたジェイソンの父・ミルコは、その数を聞いて一度はひるむが、息子との「約束」のため後には引けない。こうして、ドイツ中のスタジアムを巡る、親子の「推しチーム」探しが始まった―。

ジェイソンがチーム選びの基準にあげた「ルール」は「何があっても最後まで観戦する」、「サポーターの席に座る」、「選手が地味なシューズである」、「選手が円陣を組まない」など8つ。だが、これを満たすチームは中々現れないばかりか、さまざまな困難がかれの前に立ちはだかる。

©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH

他人との接触を嫌うジェイソンを待ち構えるボディチェック、競技場に入場するや否や降り注ぐ人々の歓声や怒号…。時にパニックを起こしそうになるが、自分で決めた「ルール」を守り実践する中で、新鮮な気づきや成長を覚える過程がつぶさに描かれる。

劇中、ジェイソンがパニックに陥った当時の自分を振り返り「頭の中で戦争が起きていた」と語った台詞や、その状態になった時、キーンというような効果音が鳴る演出は、自閉症当事者たちが、いかなる音や状況に不快感や不安感を抱くのかを想像し、かれらを理解するうえでのチャンスをくれる。

一方で、かれが通う小学校の校長が「チャンスを与えるからクラスに馴染む努力を」と話す姿から、当事者に向けられる偏見とその家族たちへの無理解を追体験するような感覚に陥る。そして作品の最後に、観客たちに投げかけられる映画の核心的なメッセージは、ハートフルなつくりも相まってより際立つものであった。

©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH

監督のローテムント氏は、自閉症を描写する困難さに対する憂慮の声に対し、「『自閉症は病気ではない』。これをまず私は最初に明確にしなければなりませんでした」とコメント。また「もめ事を事前に避けられるような、この障がいとの関わり方を学ぶことで、自閉症の人たちがずっと生活しやすくなるようなチャンスはあると思います」と語った。

実話を基にした本作は、NBAを舞台にハリウッドでのリメイクも決定した。この映画、ドイツ国内のスタジアムを列車で巡るというストーリーの関係上、車窓からみえる壮大な景色も魅力の一つ。また、ドイツ国内のサッカーについて、基本情報やファン層、スタジアムの熱狂具合などを体感できるため、サッカーファンもしびれる内容だろう。文化やスポーツそして自閉症というテーマまで、さまざまな要素を学び楽しめる作品だ。映画は11月15日から日本各地の映画館で公開中。

(韓賢珠)

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