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短編小説「澄んだ朝」9/コ・ビョンサム

2022年12月13日 09:00 短編小説

最高司令官同志は、再び壁の朝鮮地図を見つめた。

白頭山頂に登り天池(白頭山頂にある湖の名※訳者注)を見おろすようなまなざしであった。そのまなざしは、耳に聞こえてくる白頭山の雷鳴、天池の青い水の波紋、密林のざわめき、吹雪、雪の上にきざまれた足跡、ざくざくとひびく足音、白いたてがみをなびかせるように岸をうつ3つの海の波音を目前に描いているようでもあり、火山のように炎におおわれ砲煙をまきつけながらも、あの秀麗姿を世界にしめす金剛山の峯をなでているようでもあった。

最高司令官同志はからだをおこした。

「はじめての仕事ですからこういうこともあるでしょう。わたしは、トンムたちが新しく設計できるだろうと信じています。わたしたちにはわたしたちのものがあります。自分のものをもって自分の頭で考え、自分の力で立ちあがり自分の足で歩かなければなりません。自分の力を信じなければなりません。わたしのいうことがわかりますか?」

「最高司令官同志!新しくやりなおします…」

老設計家は胸があつくなり、喉をつまらせてそれ以上ことばをつづけることができなかった。

「けっこうです。では具体的に討議してみましょう」

最高司令官同志がこう提議したとき、またドアの開く音がした。誰かがドアの内側で、もじもじしているのを見て、副官が急いで行って返信紙をもってきた。

「煙草でもすいながら少し待っていてください」

最高司令官同志は返信紙を見ながらしずかにいった。

世界の前途と朝鮮革命の勝利のため、一瞬も休むことのない最高司令官同志だった。死物狂いで襲いかかる敵のたくらみを見やぶり、それを一気にうちたおす対策をたてながらも、兵士たちの傷の痛みにまで心をつかう最高司令官同志、そして今はまた都市と工場の建設を構想する最高司令官同志――。設計家たちは、胸の底がジーンとあつくなるのをどうすることもできなかった。

作戦上の命令をくだし、ゆっくりと机にもどってきた最高司令官同志は、きびすを帰して受話器をとった。また別のことが心にかかったのである。最高司令官同志の目の前に子どもたちの顔がうかんだ。

「6番トンムですか? カンゴン遺児学院の子どもたちの洋服を積んだ自動車は走っていますか? 走っている!たいへんけっこうです。栄養剤は? 早く送ってやりなさい」

設計家たちの間ですすり泣きの声がもれた。

(つづく)

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