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〈今月の映画紹介〉愛国の告白─沈黙を破るPart2─/土井敏邦監督

2022年12月08日 16:30 文化

「加害者」としての責任

「今月の映画紹介」では、上映中または近日公開予定の注目映画を、月に1度、紹介します。

第一次世界大戦時のイギリスの中東政策が発端となり、1948年、パレスチナの地にユダヤ人国家イスラエルが建国された。以降、パレスチナ自治区におけるイスラエルの不法な軍事占領、ユダヤ人入植は国際的な論争を呼び起こしてきた。本作品は、1985年からパレスチナ・イスラエル問題を現地で取材してきたジャーナリスト、土井敏邦さん(69)の集大成。2009年に劇場公開され、さまざまな映画賞を受賞した同氏の長編デビュー作「沈黙を破る」の続編でもある。

前作の上映から今日に至るまで、右傾化の一途をたどるイスラエルのネタニヤフ政権(2009年~現在)のもと、パレスチナ自治区であるガザ地区への無差別爆撃が敢行されるなど、パレスチナ人を取り巻く抑圧的状況は日増しに悪化している。そんな中、元イスラエル軍将兵らが2004年に創設した非政府組織(NGO)「沈黙を破る」の活動は、イスラエルの蛮行を国内外に告発する上で重要な役割を果たしてきた。かれらの活動は、自分たちの占領が、兵士たち、ひいてはイスラエル社会全体のモラルを崩壊させてしまうという「危機感」から始まった。しかし、真実を発信していくにつれ、かれらは政府や右派勢力の圧力を受け、身の安全さえ脅かされていく。

NGO「沈黙を破る」のメンバー、アヒヤ・シャッツさんは、イスラエル軍の占領に携わる中で「倫理観の歪み」を感じるようになったと話す。(c)DOI Toshikuni

「裏切り者」「敵のスパイ」などと誹謗中傷に晒され、社会から疎外されながらも、元将兵らはなぜ信念を貫こうとするのか。本作品はそのテーマを、かれらへのインタビューやパレスチナ自治区の現実を映した映像を織り交ぜながら描いている。前作では暴力的な占領に起因する元将兵らの危機感が強調されているが、本作ではイスラエルによる「植民地プロジェクト」(NGO創設メンバー、ユダ・シャウール氏の言葉)を終わらせようとする、かれらの強い意志に焦点が当てられた。あるメンバーはインタビューの中で、「沈黙を破る」ことで支払う代価は「小さなものに過ぎない」と語る。

「私たちは主要な犠牲者ではなく、パレスチナ人こそが実際の犠牲者です。(中略)私たちは自分たちのためではなく、さらに大きなもののために闘っているのです」

葛藤の末、よりよい社会のために行動を起こす若者たち。その姿を描く同作品には、土井監督のメッセージが込められている。それは、「本当の『愛国』とは何か?」という問いだ。土井監督自身、日本軍性奴隷制被害者たちに迫ったドキュメンタリー映画「“記憶”と生きる」(2015年公開)を制作するなどして、自国の加害の歴史と真摯に向き合ってきた。土井監督は本作品について、こう語る。

本作品の上映会後、トークイベントで発言する土井監督(左)と映画監督のジャン・ユンカーマンさん

「『沈黙を破る』の若者たちを非難する勢力は、過去に日本が犯した植民地支配や侵略戦争の事実を覆い隠し、自国の歴史を美化する日本の為政者たちと重なって見えないだろうか。加害の歴史を知り、その責任を受け止めないことには、アジアの人々と対等に向き合うことはできない。愛国とは、時に『痛み』も伴うものだ。この映画は、私たちの社会の在り方をも映し出している」

映画は新宿’s Cinema(東京)、第七藝術劇場(大阪)、京都シネマほか(京都)、全国順次公開中。

(李永徳)

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