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〈金剛山歌劇団〉主要キャストに聞く、公演にかける思いと見どころ/崔栄徳さん(3)

2022年11月05日 09:06 文化

“演者と観客との真剣勝負”

2020年から始まったコロナ禍のなか、公演を通じて各地の同胞や日本の市民たちを勇気づけ、芸術文化の持つ力を内外に知らしめてきた金剛山歌劇団。ステージを彩る主要キャストたちに、公演にかける思いと見どころを聞いた。(文・韓賢珠、写真・盧琴順)

「思郷歌」を披露する崔栄徳さん

ステージから放たれる圧倒的な存在感と巧みな演奏で名声を博し、名実ともに金剛山歌劇団を代表する演奏家の一人となった崔栄徳さん(48、功勲俳優)。今年度の巡回公演では朝鮮に伝わる不朽の名作「思郷歌」を通じて観客たちへチャンセナプの音色を届ける。

1995年に入団し、今年で28年目を迎えた崔さんが、金剛山歌劇団の本公演で「思郷歌」を披露するのは初めて。祖国の人々の温かさや風景が思い出される「崇高な曲」だからこそ、準備期間には「重圧や葛藤があった」と、崔さんは話す。

「過去に出演したコンサートで披露したことがあり、ちょうど今年5月にも女性同盟愛知・名中支部が主催するウリハッキョ応援チャリティーコンサートで、演奏する機会に恵まれた。同胞たちが好み、懐かしむこの曲をかねてからチャレンジしたいと考えていた矢先、作曲家の高明秀さんが編曲を担当してくれたことも重なり、本公演でもやってみようとなった」(崔さん)

しかし、本公演の舞台にあげるとなれば、年間を通してその完成度を維持しなくてはならず、1回きりの公演に向けた準備とはわけが違った。そんななか、いざ準備を始めたとき、崔さんは並々ならぬプレッシャーに襲われたという。

「この曲はとても平たんでなおかつ音の幅が広い。例えば『G線上のアリア』のようにまっすぐに弾かなくてはその魅力が伝わらないすごく難しい曲だ。一方でチャンセナプは、どちらかといえば、チャキチャキと音を多彩に使うことで楽器そのものの味が出るので、『青山里の豊年』のように曲自体がバラエティに富んでいる方が割と弾きやすい。『思郷歌』を知らない人が聞いても感動するような演奏とはどんなものか、巡回公演を行ういまも追求している」(崔さん)

今回「思郷歌」のステージは、チャンセナプのソロだけでなく、作品の重要な要素としてソヘグムの伴奏もあり、「チャンセナプとソヘグムが奏でる旋律、二つの楽器の調和が完成度をあげている」。

これまで日本、朝鮮だけでなく世界を舞台に数々のステージに立ってきた崔さん。その過程で「人の心を突き動かす芸術の力」に自身も魅了されてきたという。「心にしみわたる歌を聴いたり、踊りを観たり、演奏を聴くと力が湧く。それは演者もそう。例えば大きなアンコールの声があがるのは、見に来てくれた方々の心を本当にわしづかみにしている表れだと思う」(崔さん)

一回一回のステージは崔さんにとって「演者と観客との真剣勝負」の場だ。空気中に見えない両者の気の張り合いはその緊張感を高め、「勝負」後、会場から声があがったときには「よっしゃ!(心を)動かしたぞ!」と内心ガッツポーズするという。この大きな原動力が、チャンセナプ奏者・崔栄徳を一層輝かせている。

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